「まほろさんファースト」 あとがきなど

あとがきなど書いてみたいと思いますが、まずはその前に。
『まほろまてぃっく』といえばこれを避けて通るわけにはいきません。というわけで……



~ サテライト ポエマー ~


心正しく 清らかで
心優しい アンドロイド
隠しごとなどない私だけど
言っちゃいけない そんな気がする

胸に芽生えた ちっちゃな何か
あったかくて くすぐったくて
伝えたくて でも言えなくて
切なくて なのに心地よい

はじめてのないしょ こんな気持ち
人は皆持ってるのですか
はじめてのないしょ この思い
そっと抱いてていいですか もう少しだけ





うん。51才のおっさんが書いていい文章じゃないな。
まあブログの恥はかき捨てという事で。


この話を書こうと思ったきっかけは、アニメの『まほろ』4話の回想シーンで、アイオワ級戦艦やらイージス艦やらが出てたのを見て、
「『まほろ』ってそういう話もありなの? そういうの見たい見たい!」
「やってくれないなら自分で書いちゃえ」
という単純な理由です。

書くにあたっては2つほど目標がありました。
ひとつは、
「自分が美里司令になりかわってまほろさんとデートする☆」
というふとどき千万なもの。
これは一見叶うかと思えましたが、書くのが遅すぎて、
「自分のが美里司令より年寄りになってしまった」
というまさかの事態でミッション失敗。
もうひとつの目標は、
「たとえ小説の中でも、憎き鬼畜米帝の戦艦をこの手で屠る」
という穏やかならざる物でした。
こちらは無事ミッションクリアです。
この場を借りて言わせてください。

「舞風~ 仇はとったぞぉ~っ!!」



思えば、この話を書くために『ニュージャージー』のプラモまで作ったのですが。

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そこまでしたわりに考証はでたらめだ

何年もこのプラモを眺めてるうち、いつしか愛着さえ持ってしまいました。
もういっそ「艦これ」にも実装してくれい!


読み直してみたら戦闘シーンの日本語が色々おかしかったり、
(敢えて放置。だって面倒くさいしこういうのはノリが大事なので)
椎名さんのキャラ勝手に作ったり、
(ファンの人申し訳ありません。でも好きです椎名さん)
反省点はありますが、それでも最後まで書けて満足してます。

読んでいただいた方、ありがとうございます!
リクエストがあればもう一遍くらい書いてみようかな~とか思ってます。
なにぶん書くのが遅いので、いつになるやらですが。


「まほろさんファースト」(9)

『まほろまてぃっく』の小説の続きです。
今回で最終回です。





 総員退艦命令を告げるサイレンを、私は遠い出来事のように聞いていた。
 天をも焦がす炎、たなびく黒煙、焼け焦げた匂い……
 船体のきしみが背中越しに伝わってくる。艦は傾き、徐々にその傾きを増していた。不沈艦とさえうたわれたアメリカの誇りが、今は終わりの時が近いことを告げていた。
 なのに静けさを、そして不思議な安らぎを感じるのはなぜだろう。やり遂げたという達成感ゆえだろうか。
 あの怪物は、きっと倒せただろう。でなければ今こうしていられるはずがない。

(そうだ、司令は!?)

 その身を起こそうとして、私はようやく身動きできない自分に気づいた。無理に起き上がろうとした代償に口から鮮血が溢れ出る。

(か、は……)

 身体を丸め、怪物と自分の血にまみれた身体を横たえる。それが今の私にできるせいいっぱいだった。
 オートリペアによる回復は…… 少なくとも1時間。
 その頃には、この艦はとうに沈んでいるだろう。

(万事休す、か)

 なのになぜだか、私は微笑んでいた。崩れ落ち、折り重なったマストの間から見える星空を眺めながら、先刻の戦闘を思い返していた。
 異星人であるセイントが人間の指揮系統を把握し美里司令を狙った。なぜだろう?
 そもそもあの怪物は本当にセイントが差し向けたのだろうか。
 疑問が次々と脳裏をよぎる。
 きっと、司令にはわかっていたのだ。だからああして艦橋に立っていたのだ。死をも覚悟の上で。
 非情な人だ、司令は。
 そしてそれ以上に罪深いのは、私自身だ。
 悪鬼の如く殺意にかられて戦った自分の姿。あれが私の本性なのだろうか。
 戦いで相手の命を奪った罪は、自分の命で償うしかないのだろうか。

 私はそっと目を閉じ、血糊の付いた甲板に身を横たえた。
 凪いでいるのか、いつも私の心を和らげてくれる波音は聞こえない。
 代わりに甲板から伝わってくる船体のきしみに、私は妙な安らぎを覚えた。私と同じ目的で作られ戦い続けた『彼女』の魂が語りかけてくるようで。

『怖いの? 大丈夫。私と一緒にいきましょう』

 声に身をゆだねて頷こうとすると、現実の苦しみが私を呼び戻した。

(ぐ……)

 溢れる自分の血で窒息しないよう、やっとのことで顔を横に向ける。
 ぼやけた視線の向こうに人影が見えた。甲板に倒れ、すすけた顔で心配そうに私を見つめている。

(司令!)

 ようやく気づいた私を見て、司令の顔に安堵が浮かぶ。
 せいいっぱい笑顔を返そうとして、自分が声を出せなくなっている事に気づいた。
 司令の口が私に話しかける。けれどその声も聞こえない。いつの間にか聴覚まで駄目になっている。

(司令)

 私はかすかに首を振り、声のかわりに目で訴えた。

(逃げて下さい。私は、もう……)

 無理に声を出そうとする私を手で遮り、司令は自分の足を指さした。
 司令の両足は非情にも、横倒しのマストの支柱に挟まれていた。

(そんな……)

 知らず、私の頬を涙が伝う。
 司令はそんな私を優しく見つめる。なんで悲しい顔をするんだと言わんばかりに。

 司令を。誰か、司令を助けて。
 司令はかけがえのない人だから。
 ヴェスパーにとって。誰より、昨日見た写真の二人にとって。
 奥さんの、優さんの笑顔を、奪うわけにいかないから。

(動いて、私の身体!)

 私は渾身の力を込め身体を引きずった。
 悲鳴をあげる身体を叱りつけ1センチまた1センチと距離を重ね、司令の傍らに辿り着いた。
 後は立ち上がり、邪魔な支柱を片づけるだけ。
 私の力なら、割り箸を割るのと同じくらいわけのない事。
 でも。
 いくら歯を食いしばっても、もう立ち上がる力さえ私には残っていなかった。私に出来るのは司令を見つめ、自分の無力さに涙を流すことだけだった。
 そんな私に司令の手が触れた。
 まるで父親が娘にするように、私の髪をそっと撫でる。
そして司令は自分の胸の内ポケットをまさぐり、小さな包みを、その中から黒い丸薬を取り出した。

 口を開けて。司令の口許がそう言っている。
 飲めば楽になると、司令の目が言っている。

(そう、ですか……)

 それはきっと、苦しまずに済むための薬。
 うながされるまま頷くと、司令の指が私の唇に触れた。
 司令を見つめる私の眼差しに、司令は黙って頷く。
 優しい笑顔に静かな覚悟を決め、私は震える唇でその薬を口に含んだ。
 司令はそれを見届け、私の傍らに寄り添った。
 冷え切った身体に、暖かい体温が流れ込んできた。安らかな心地よさに目を閉じてしまいたい衝動にかられた。そうしなかったのは、私の見ることのできる最後の情景をこの目に焼き付けておきたかったから。

 燃えさかっていた炎も止み、白んだ空に名残の星々が溶けていく。
 瓦礫の隙間から覗く水平線の彼方には朝焼けの雲が、そして昇り始めた朝日を受けて、鏡面のように穏やかな海がキラキラと輝いていた。
 そんな全てが、今の私にはいとおしかった。

 生きたい。

 さっき死を覚悟したはずの自分が、今は無性に思う。

 生きたい。生きたい。生きたい!

 失いたくないから。日差しの優しさも、司令の手の温もりも。
 こんな時だというのに、消し忘れのラジオから場違いに陽気なゴスペルが流れてきた。歌は今の私には生きる喜びに満ちて聞こえた。私はいつしか心の中で曲に合わせて歌っていた。小さく身体を揺らせ、唇を開いて。

 歌いながら、ふと気づいた。再び耳が聞こえるようになっている自分に。

「まほろ」

 もう聞けないと思っていた司令の声が私を呼ぶ。

「立ち上がってみてごらん」
「そう言われましても……」

 あれ? 私、声が出せる。体が楽になっている。

「さあ」

 司令の声に促され、私は口についた血糊を拭い、よろよろと立ち上がった。
 なぜ立てるようになったのか。考えるいとまもなく、私は憑かれたように司令を阻む支柱にとりついた。

「ん、んっ!」

 ミシミシ…… と軋む音がして鉄骨が持ち上がっていくのを、まるで他人事のように私は見つめる。

「抜けたぞ、まほろ!」

 司令の声を合図に私は支柱を押しやった。トラスがひしゃげる派手な音がする中を、私は司令に駆け寄った。

「司令!」
「ああ、大丈夫だ」

 大丈夫なわけがない司令と顔を見合せ、私は笑った。司令も笑った。

「さあ、帰りましょう」

 手早く応急措置をしながら司令に声をかけると、

「どうやってだね?」

 司令はあいかわらず呑気にこたえる。
 戦闘中の所持が禁じられているはずのポケベルを取り出すと、見事に割れた液晶に帆風さんからのメッセージがしっかり表示されていた。

『Sylpheed standby OK!』

 ありがとう、帆風さん。
 私は顔を上げ、朝焼けの空に向かって叫んだ。

「サモン… ザ、シルフィード!」

 訓練で散々教わった召喚の言葉を唱える。
 二人が空を見上げると、やがて朝焼けの向こうから一筋の飛行機雲と共に純白の機体が姿を現した。



 シルフィードという翼を得た私は司令を抱いて朝の空を飛ぶ。

「司令…… さっきの丸薬は?」
「ああ。まほろのリペア機能を補助するカプセルだよ。まだ試作段階だそうだが」
「そんな物があるなら、先におっしゃって下さい!」
「耳元で怒鳴らんでくれ。私は怪我人だよ」
「無茶をするからです。少しは懲りてください」

 眼下に『ニュージャージー』の全容が見え、二人は口を閉ざした。
 その艦首は既に水面下に消えていた。そしてあの怪物は、艦橋にからみつく巨木のように触手を伸ばしたまま絶命していた。

(あんな巨体と、戦ったんだ……)

 怪物を道連れに沈みゆく『ニュージャージー』が断末魔の悲鳴をあげる。それは兵器として少しばかり長生きしすぎた彼女が、ようやく死地を得た安らぎのため息にも聞こえた。
 私は、戦いに散った兵士と、私が命を奪ったあの怪物と、偉大な戦艦のために祈った。

「生き残った我々は、死んだ者たちの分まで生きねばな」

 司令がつぶやく。

「そうですとも」

 つとめて明るく私は言った。

「司令」
「なんだね」

 私は司令の内ポケットの写真を思い出して言った。

「決まりました? 優さんへのお土産」
「いかん。まほろに言われるまで忘れてた」
「ふふふ…… お父さん失格ですよ」

 私の言葉に、司令は年甲斐もなく顔を明らめる。
 そんな司令の事を、そして奥さんの事を、私はなぜだか少しうらやましく思った。

「まほろ」
「はい?」
「その…… 少し、痛いんだがね」

 思わず司令を強く抱きしめていた事に気づいて私はどぎまぎする。

「す、すみません…… ヒッ!?」
「ん、どうした」
「何でしょう。急にしゃっくりが…… ヒッ!? 止まらな…… ヒッ!?」
「う~ん、さっきの丸薬の副作用か。やはりまだ改良の余地があるな」
「そんな呑気な…… ヒッ!?」
「おいおい、手を離すんじゃ…… ああっ!」
「きゃ~っ、司令~っ!!」

 落っことしてしまった司令を急降下で追いかけながら、私は笑っていた。

「ふふふふ……」

 笑いながら司令の手を取る。

「おいおい、笑い事じゃないぞ」

 そういう司令も笑っていた。

「はい。もう離しませんから」

 だってみんなが司令を待っているから。
 椎名さん、帆風さん、郡司さん、大門さん、首領様。
 そして司令の奥さん、優さん。
 みんなを悲しませたくないから。
 ええ、離すもんですか。ずっとお守りいたします。
 みんなのために…… 私のために。
 ずっと、ずっと。

(完)


「まほろさんファースト」(8)

『まほろまてぃっく』の小説の続きです。





「『タイコンデロガ』からのリンクデータが途切れました」

 『ニュージャージー』の艦橋では、皆が『タイコンデロガ』に起こった状況の把握にやっきになっていた。

「『タイコンデロガ』速力低下」
「発光信号確認、『キカンヲニュージャージーニイジョウスル』」

 矢継ぎ早に悲報が届けられる。

「落ちついて、順番に報告しろ」

 初老の艦長は指揮官に相応しく感情を押し殺してはいるが、その声には苛立ちが見え隠れする。
 およそこの艦が現代の情報戦に相応しくないのは、彼らのあたふたした動きからも明らかだった。
その最中の事だった。

(!)

 私の中の何かが、気配をとらえた。
 理屈では説明できない何かを。
 自分の中にそんなものが潜んでいることに内心驚きつつ、傍らの司令を見やる。

「司令」

 次の瞬間、遠くから低い海鳴りが聞こえてきた。まるで巨獣の咆哮のように。
 艦橋備え付けの旧式の受話器がけたたましく鳴る。

「『マンチェスター』が被弾した模様です」

 居合わせた一同が一斉に窓の外を見やる。
 右舷前方の暗闇に、大きな火柱が立て続けに上がった。
 間髪入れず、別の方角から不気味な海鳴りが二度、三度と続き、そしてまた別の火柱があがる。

「『ペトロパブロフスク』航行不能」
「『スプルーアンス』沈黙」

 オペレーターが次々と凶報を伝える。

「対水上戦闘用意」

 艦長が叫ぶように命じたその時、私は強烈な耳鳴りに襲われた。吐き気がする。目の前が暗い。

「大丈夫か、まほろ」

 司令の声に気がつくと、私は両耳を抑えて座り込んでいた。

「だ、大丈夫です」

 我にかえった私は、艦の惨状に我が目を疑った。
 電気が消えた艦橋の暗がりの中で、あちこちに備えつけられた電子機器から線香花火のような火花が漏れだしてチカチカと光っていた。

「これは一体!?」

 ようやく点いた非常灯に照らされ困惑した表情を浮かべる艦長は、一人動じずにいる司令に訊ねる。
 司令は落ちついた表情で答える。

「おそらく、強烈な電波攻撃です」

 目の前の伝声管が突如キンキン声でがなりたてた。

「艦橋、聞こえますか」

 とっくに使えない過去の遺物と思っていた伝声管を、艦長は手慣れた様子でパカンと開いた。

「艦長だ」
「現在あらゆる電子機器がシステムダウンに陥っています。対空、対水上レーダー使用不能。ハープーン、CIWS使用不能。トマホークもです」
「僚艦はどうなっている。本土との連絡は?」
「わかりません。通信機器も使用不能です」

 艦長が階下とやりとりをかわす間にも、士官たちは伝声管で矢継ぎ早に指示を出す。

「見張りを増やせ。目視による水上警戒を厳重にせよ」
「電源の復旧を最優先で行なえ」

 怒号が飛び交う中、気がつくと美里司令が傍らに立ち、静かに言った。

「まほろ」

 司令の表情は普段通りに穏やかだった。

「出撃できるか?」

 言われて気づいた。自分の体調はすっかり元通り、万全だ。
 我ながら驚きだった。艦船に搭載された電子機器がことごとく全滅したというのに、同じ電子機器の固まりであるはずの私はどれだけ頑丈に作られているのだろう。

「はい、いけます」

 目をらんらんと輝かせ、私は答えた。

「よし、出撃だ」

 一礼して飛び出そうとする私を艦長が呼び止めた。

「まほろさん」

 今までろくに会話もしてくれなかった艦長が、私を初めて名前で呼んだ。

「敵をこの『ニュージャージー』に引きつけて下さい」

 この危難の中にあって、白髪の混じった艦長はむしろ嬉々として見えた。

「美里司令が言われた通りに敵が電子攻撃をしかけたなら、他の艦の砲は使い物にならんでしょう。しかし『ニュージャージー』の砲は健在です。なにせトランジスタができる前の代物ですからな」

 艦長の目が自虐気味に笑う。

「『この娘』に、仲間の仇をとらせてください」

 僚艦の燃え盛る炎に、艦長の瞳がギラギラと照らされる。

「はい」

 司令の、艦長の決意を受け止め、私は艦橋を飛び出しラッタルを駆け下りた。
 甲板に出た途端、まばゆい光に目がくらむ。
 艦に備え付けの探照灯が、今や旗艦となったこの艦の命令を各艦に伝えているのだ。第二次大戦の昔さながらに。
 そしてより大型の探照灯の光が海面をなめていく。海に隠れた怪物を捜そうとやっきになって。
 敵の姿は、まだ見えない。
 そう思った瞬間、またあの耳鳴りが私を襲った。
 見張りに立っていた傍らの兵士が次々と耳を押さえて倒れこむ。想像を絶するエネルギーの超音波が電子兵器のみならず兵士達をも蝕んでいる。
 最高の技術で作られた耐性スーツを着用していなければ、自分などとっくに犠牲になっていただろう。

「!」

 探照灯の操作員が気絶して落下していく。
 考えるより早く私は駆け出し、甲板に激突する寸前の彼を受け止めた。
 落下の際に頭を打ったのか、若い兵士の額に血が滲んでいく。チークの甲板に彼を寝かせると彼はゆっくり目を開けた。

「お前…… ヴェスパーの、アンドロイドか?」
「しゃべらないで。今、傷の手当てを」

 兵士は首を振り怒った顔で私を睨んだ。

「こんな事してる場合か。お前にはやるべき事があるだろ」

 でも、と言いかけた私は、彼の鬼気迫る表情に黙り込んだ。

「今のお前にしかできない事がある。それを全力でやれ!」

 血の滲んだ顔で彼が私を睨む。
 私は頷いて立ち上がり、兵士に一礼して駆け出した。もう振り返りはしない。
 制御を失った探照灯が狂ったように海面を照らし、その先に不気味な波を巻き上げる何者かが迫っているのが見えた。

(来た)

 あたりが轟音に包まれる中、私は派手なゼスチャーで敵の到来を告げる。兵士たちは頷いて艦橋に連絡を試みる。
 だが戦艦の誇りたる主砲も副砲も、未だ覚めようとはしない。

(武器を、何か武器を)

 考えを巡らせ視線を巡らせ、私は上部甲板の対空用ファランクスに目を向けた。
 近接する敵を迎え撃つ最後の防波堤であるはずの6連装バルカン砲は電子の制御を失い、その銃身は見当違いの上空に向けられていた。
 私は躊躇することなく跳躍し、眠り惚けたファランクスに取りついた。ためらいもなく姿勢制御用のモーターを力任せにぶち壊すとドクドクとどす黒い油が流れ出す。かまわず制御盤の蓋をやすやすと引きちぎり結線を引き抜く。
 巨大な銃身を強引に片手で支えて敵に狙いを定め、もう片方の手で引き抜いた結線を銃身の動力部に直結した。
 バチン、などと生易しいものではない派手な火花と白煙と轟音があがる。兵器はビンタで叩かれたように息を吹き返し、私は眼下の敵めがけ20ミリファランクスバルカンをフルオートでブチ込んだ。
 悪名高い劣化ウランの死の弾幕が目視で狙った敵めがけて分速3000発で叩き込まれていく。

「GYAAAAAA! 」

 怪物が言葉にできぬ悲鳴をあげ、不気味な光と不快な衝撃を発する。私の機能を停止させようともくろむ電磁波の悪意が防御服越しにビリビリ伝わる。
 規格外の乱用に赤熱したファランクスの銃身が抗議の悲鳴をあげて蒸気と火花を吹く。火花は油に引火し紅蓮の炎をあげる。私は構わず、灼熱地獄とゆらめく蒸気と轟音の中でただひたすらに撃ちまくった。
 怪物をとりまく虹色が消え、海面には中世の地図に描かれた海坊主の如き怪物が姿を現した。ここが世界の果てで、船を呑み込む使命を果たすかのように。

「全砲塔、各個射撃開始! 」

 不意に復活したスピーカーが大音量で艦長の命令を伝える。
 その声に勢いを得たのか、甲板の5インチ砲塔群がのろのろと蠢きはじめた。
 それを見届けた私は、煙をあげて機能を停止したバルカン砲を放棄し、次の武器を求めて駆ける。背中ごしに「轟!」と頼もしい発射音が聞こえ、私は5インチ砲が息を吹き返したのを知った。
 20ミリバルカンではびくともしなかった怪物が重量37キロの5インチ砲弾をまともに食らいガクッとよろめく。
 兵士たちが「わっ」と歓声をあげたのはそのせいだけではない。遂に主砲塔のひとつが目を覚ましたのだ。
 2番主砲塔の3門の巨大な砲身は眠れる獅子が起き上がるように首をもたげ、久々の獲物に歓喜して狙いを定める。

(いける)

 そう思ったその時、怪物の体内で何かが白く光った。
 まばゆい閃光と、それに続く一面の赤い炎。次の瞬間、横殴りの爆風があたりを薙ぎ払った。
 壁に叩きつけられた私の目に映ったのは信じられない光景だった。
 一千トンを優に越える『ニュージャージー』の2番主砲塔は紅蓮の炎に突き上げられマストの高さにまで吹き飛んでいた。
 宙に浮いた砲塔下部のぽっかり開いた大穴から、蟻のような影が海面にポトポトと落ちていくのがはっきりと見えた。砲塔はその後を追うようにスローモーションで海面に落下していく。
 そして想像を絶する大音響と水柱が視界を埋め尽くした。

 惨劇を目の当たりにして、自分の中の戦意が殺意に変わっていくのがわかった。

「うおおおおおおおっ!」

 仇を取らんと副砲がうなりをあげる。狂ったような乱射と轟音と猛火の中、私は野獣のような声を上げながら艦上構造物を駆け上がり、対艦ミサイルの発射筒をこじ開けていた。

「離れて!」

 思わず駆け寄る兵士たちを追い払い、私は格納されたハープーンを乱暴に取り出すと巨大なミサイルを片手に抱えた。

「はぁああああああっ!!」

 前方の敵を睨んだまま助走をつけて甲板を走り、そのまま槍投げの要領で怪物目掛けて投げつけた。轟音をたてて巨大な質量が怪物めがけ飛んで行く。
 タイミングを見計らい愛用のアーマーマグナムを弾頭めがけ続けざまに撃ち込むと、ハープーンは敵を直撃した瞬間に暴発した。

「KSYAAAA~!」

 敵の悲鳴を心地よく聞き流し、私は次のハープーンを用意する。怒り狂って猛進してくる敵に、今度はミサイルを抱き抱えたまま突進する。
 敵の体内がまた白く輝いた。奴が放つ死の光を間一髪かわし、すれ違いざまにハープーンを敵本体に突き刺した。絶妙なタイミングで味方の5インチ砲が敵を直撃しミサイルが誘爆を起こす。

「やった」

 そう思う間もなく、奴の触手が私を捕らえた。
 もがく私を道連れに、怪物はそのまま『ニュージャージー』の艦橋めがけ激突した。

「ぐはっ」

 艦橋と怪物に挟まれ私の口から絶叫が漏れる。息ができない。
 それでも防御服は私を破滅から救い、体に刻まれた戦闘本能がなおも戦えと催促する。
 だが奴の触手は私の体をがんじがらめにしたまま艦橋にしばりつける。
 敵は思いの外、狡猾だった。ケタ外れの攻撃力を持つ『ニュージャージー』も、自らの艦橋に指向できる砲は持っていない。奴はそれを知ったうえで余裕をもって徐々に私を締め上げているのだ。
 声にならない声をあげて、私はもがいた。

(……負けない )

 私は目を閉じ、手刀にエネルギーを集中させた。
 それは訓練の時でさえ一度として使わなかった、私の最大の武器。
 その名は『輝ける闇』。私の命そのもの。
 私はその封印を解いた。
 カッと目を見開くと同時に私の右手は輝きを放った。縛っていた触手を易々と切り裂き、私は敵に飛びかかる。

「はあああああっ!!」

 踊りあがるように相手の懐深く飛び込むと何の躊躇もなく手刀を深々と突き刺し、敵が苦悶にのたうつ。
 やったと思う間もなく触手の一撃が私の身体を傍らの銃座ごと薙ぎ払う。甲板にもんどりうった次の瞬間、私は猟犬さながらに獲物向かって飛びかかる。
 敵の懐に飛び込み、さらに深く突き刺す。あと1インチ、敵を死に近づけるため。
 私は修羅と化した。メキメキ削れる肉の音さえ快感だった。私はきっとゆがんだ喜びに笑みを浮かべていたに違いない。
 さらに私には頼もしい援軍が現れた。怪物の背後で『ニュージャージー』の巨大な1番砲塔が旋回を始めたのだ。

 主砲が自らの艦橋を撃てるはずがない。
 けれど、2番砲塔が吹き飛んでしまった今ならば!

 凶悪無比な砲口が怪物に照準を向ける。怪物が怯える様が、私にはみてとれた。
 『彼女』の16インチ砲が全てを終わらせてくれる。

(勝った)

 けれどなぜ、こいつは逃げようとしないのだ。
 砲塔の緩慢な動きに比べ、逃げることなど造作もないはずなのに。
 その時だった。私が怪物の触手の動きに気づいたのは。
 奴の残った触手が巨大な艦橋を這い上がっていた。何かを求めるように。
 不意に私は思い出した。司令の言葉を。

「エサをまいておいたからね」

 こいつの目標は、私なんかじゃない!
 退去して誰もいないはずの艦橋に、一人の人影が立ち、穏やかな顔でこちらを見つめていた。

(美里司令!)

 その司令めがけて触手たちが這い寄っていく。
 戦慄した私の一瞬をついて別の触手が掴みかかる。
 私は闇雲に、我が身を拘束する触手をふりほどいた。その間にも巨大な砲塔は刻一刻、獲物に照準を合わせる。

「司令!!」

 私は疾風のように奴の本体深く一撃を加えた。ひるんだ敵を踏み台に艦橋へと跳躍する。
 巨大な砲塔の殺意を背後に感じ、私を阻む触手の群れをすり抜け、永遠に思える数秒を救うべき人に向かって突き進む。割れるはずのない防弾ガラスを突き破り、艦橋に立ち尽くす司令を有無をも言わせず抱き抱えた。
 早く、一刻も早く!
 無情にも司令塔の扉は閉められている。

(間に合え!)

 絶望するより早く私の右手が渾身の力でドアをこじ開ける。厚さ40センチの金属塊が根負けしてドアは開いた。かすかな安堵は、背後から来る途方もないエネルギーに遮られる。
 猛烈な爆風と轟音と閃光とが襲ってきた。圧倒的な力の前になすすべもなく、私にできたのはただ、司令の体をしっかりと抱きしめる事だけだった……

(続く)




たまには戦闘シーンを書くのもいいものですね。
なんというか、「ストレス解消」!?
でもこんなのばかり書いてたら逆にストレス溜まりそうです。

次回が最終回となります。


「まほろさんファースト」(7)

『まほろまてぃっく』の小説の続きです。


 
 
 予定時刻を過ぎ日付が変わった頃、戦艦『ニュージャージー』は重い腰を上げノーフォークを抜錨した。
 これから戦いに向かうとは思えない静かな港を、タグボートに導かれて抜けていく。
 港外に出ると艦は増速を始めた。公称21万2千馬力の機関がうなりを上げ波を蹴立てる。とはいえ建造当初のカタログスペックが出せるはずもなく、老いた彼女は振動と騒音をたてながら、先行する艦隊を懸命に追った。

 『ニュージャージー』の操舵艦橋は5万t級の大艦と思えないほど狭い。そこに大勢の士官や我々ヴェスパーの要員までが乗りこむのだから窮屈このうえない。
 その狭い艦橋の真ん中には司令塔という穴蔵がどっしりと据えられていた。厚さ数百ミリの鉄の塊で覆われたこの司令塔は、いざという時に司令部中枢を守り指揮系統を維持する目的で作られている。これが役に立つ日は来るだろうか。
 来るとすれば、それはきっと今夜だ。

 私は脳裏で何度も戦いのシミュレーションを繰り返した。
 与えられた任務はもちろん、参加艦艇の主要緒元も頭に叩き込んである。
 教えられていないのは、万一の時の美里司令の守り方だ。
 司令はいざという時、司令塔に待避してくれるだろうか。
 傍らに立つ司令の顔を伺うようにしてみても、表情は読みとれない。午後に見た司令の穏和な表情はもう影を潜めていた。
 司令の中で、もう戦いは始まっているのだ。

 前方に、輸送船を中心に輪形陣を組んだ艦隊の姿が見えた頃、上弦の月は既に西に傾いていた。
 去り際の月光に照らされた海は不気味なほど穏やかだった。

(まだ戦いは始まってはいない)

 私は安堵した。
 正直に言えばこの期に及んでもまだ、これから戦いが始まるのが信じられなかった。
 けれど艦隊の最後尾に『ニュージャージー』が合流しようとした頃、前方に不自然な光が浮かんだ。

(虹色の光!?)

見張り員の声がスピーカーを通して流れる。

「敵襲です!」

 私は司令を振り返った。
 司令は黙って頷いた。戦いが始まったのだ。

 けれどこの時、我々が望まぬもう一つの戦いが始まっていた。 大門副司令たちが乗り込み、輸送船に並走するイージス巡洋艦『タイコンデロガ』の艦内で。
 その時の我々は、それを知る術もなかった。

 というわけでこれから30分間、貴方の目はこの場を離れ『タイコンデロガ』の艦内に入っていくのです……




「ソナーに反応あり」
「位置は?」
「輸送船の直下です」

 旗艦である『タイコンデロガ』には続々と敵の情報が伝えられる。
 その艦橋の司令席に陣取る大門副司令は、けれど居心地の悪さを感じずにいられなかった。
 情報は海軍士官の頭越しにやりとりされ、自分には何も伝えられない。

(蚊帳の外、か)

 指揮系統が混乱しないよう平時は海軍が、有事の際にはヴェスパーが指揮を取ると事前に打ち合わせされているのだが。
 今の大門にできる事といえば、窓から外を眺める事と自分の部下に連絡を取る事くらいだ。
 大門はマイクを取り、輸送船に乗り込んでいるヴェスパー隊員に連絡を取った。

「どうだ、そちらの状況は」
『なかなかの壮観です。船橋は奴の触手にからまれてますよ』

 輸送船には数人のヴェスパーの決死隊が乗り込んでいる。爆薬で船ごと奴を吹き飛ばす予定だ。無論、脱出の手筈は整ってはいる。

『それより困った事が。起爆装置が故障です』
「どういう事だ?」
『故障というより電源を喪失したという方が正しいですね。奴はどういう理屈か、船の発電機やバッテリーから電気を吸い取ってます』

 声に混じって船体の軋む音が聞こえる。部下は平静を装っているが状況は相当緊迫しているようだ。

「わかった。爆破を諦め脱出してくれ」
『了解です。脱出まで、あと2、3分……』

 連絡が途絶え、時を同じくして右舷の海面に小さな火の手が見えた。ちょうど輸送船のいるあたりだ。
 大門は操舵手の横に立つ司令官を振り向いた。

「砲撃準備に入ってください」

 司令官は落ち着きはらっていた。

「準備は完了しています」
「脱出艇が輸送船を離れるのを確認次第、砲撃を開始してください」
「了解しました。全艦、砲撃準備」

 大門が念押しをするまでもなく、既に主砲は輸送船に向けられている。
 部下達の身が案じられるがチャンスを逃すわけにはいかない。彼らの脱出が確認され次第各艦が砲撃を開始する。
 予定通りとはいかないが、目的は達せそうだ。うまくいけば『ニュージャージー』も、そして初陣のまほろの出番もないだろう。
 その時、通信員が悲鳴に似た声をあげた。

「CICと連絡が取れません」

 通信員はいくつものスイッチを入れ、マイクに話しかけ、そして顔をあげ首を振った。
 大門は思わず立ち上がった。
 CICは艦の頭脳だ。そこと連絡が取れないなどという事はありえない。

「脱出艇、目視にて確認しました」

 双眼鏡を手にした見張り員が艦橋に直接報告に来た。

「各艦に砲撃命令を」
「駄目です。通信そのものが使えません」

 司令官と艦長、そして大門が顔を見合わせた。
 司令官が声をあげる。

「発光信号を!」

 司令官の命令を伝えに、先程の見張り員が甲板に駆けていく。

「CIC、見てきます」

 副官の言葉に司令官が頷く。
 大門としても、これ以上黙っているわけにはいかなかった。

「ヴェスパーの人間も同行させましょう」
「CIC は関係者以外立ち入り禁止です」

 そんな事も知らんのかと艦長が即座に反論する。

「有事における現在、この艦の責任者は私です」

 断固とした大門の口調に、司令官が艦長に目配せした。

「いいでしょう。しかしこの事は後で委員会に報告致します」
「ご協力に感謝します」

 やれやれ、万事がこの調子か。
 司令席にドスンと腰掛け、大門は艦内通話に手をかけた。

「郡司君、聞こえるか」

 幸い、艦内の郡司には連絡が繋がった。日頃いがみ合う技術官の声が今は頼もしい。
 郡司に、副官に同行してCICに向かうよう手短に指示し、最後に大門はこうつけ加えた。

「ああ、『まほろ』も同行させてくれたまえ」

 『まほろ』という言葉に通信員の一人が聞き耳をたてているのを、大門は見逃さなかった。
 薄々目をつけてはいたが、この者は、やはり……
 大門の胸のうちに、忘れようにも忘れられない呪われた組織の名が浮かぶ。

(『管理者』か)

 今度の戦い、やはり一筋縄ではいかなそうだ。



 郡司は階下で副官と合流した。

「『まほろ』さんは?」
「後から来ます」

 二人が足早にCICに向かうと、扉の前に屈強な二人の兵士が銃を構え、両脇を固めていた。

「異常はないか」
「アイ・サー」

 副官の問いに二人は表情を変えず、機械のように復唱する。
 カードと暗証番号を入力した副官は、捧げ銃をして道を開ける兵士の脇を抜ける。
 続いて入ろうとする郡司を、しかし冷たい銃床が遮った。

「許可のない者は通れない」
「ヴェスパーの郡司技術官だ。司令官の許可を得ている。聞いておらんのか」

 その時、室内から鈍い銃声が聞こえた。続いて副官の小さなうめき声と、ドサリと崩れる嫌な音も。
 駆け込もうとする郡司は兵士の銃床にこづかれ、身体をよろめかせた。

「つっ……」

 兵士の顔を見た彼はゾッとした。明らかな異常事態なのにこの兵士たちの平然とした表情はどうだ。

「構わん、入れたまえ」

 その時、CICの中から甲高い声がした。
 聞き覚えのある、むしろ忘れたくても忘れられない声が。
 兵士が道を開け、郡司はドアをくぐる。

「メフリス……」

 照明を落としモニターと計器が人工色の光を放つCICの室内で、コンソールに備え付けの椅子に腰掛けた小男が、こちらを見つめニヤついた顔をみせていた。

「久しぶりだな、と言いたいがザコの顔などいちいち覚えていなくてね」

 宿敵を目の前にして、郡司は自分でも驚くほど冷静だった。

「どうやってここへ」
「どうやってだと? わけもない。ここには我々の協力者が何人もいる」

 悪魔の顔をした男が邪な笑みを浮かべる。

「まったくヴェスパーのお人好し共には呆れるわ。ここは『管理者』の裏庭のようなものだ。のこのこやってきて、すんなり帰れるとでも思ったか!?」

 メフリスの足元に副官が倒れていた。まだ息はある。

「相変わらずよくしゃべる男だ。お前たちの目的は何だ?」

 答えなど求めてはいない。今は時間稼ぎが必要だ。『まほろ』が来るまでの。

「弱小組織のヴェスパーなどつぶすのはわけもない。だが問題はつぶし方だよ」

 メフリスは上機嫌で話し始める。

「『セイント』は当初我々が思っていたほど好戦的ではない。だが彼らが仕掛けて来なければ、一番困るのはお前たちヴェスパーだ。『セイント』から人類を守るというお前たちの存在意義は根本から崩れるのだからな」

 残念だが、こいつの言っている事は本当だ。
 ヴェスパーの理念がどうであれ、外部の人間にとってヴェスパーはセイントを追い払う便利な道具に過ぎない。
 そして役に立たない道具は捨てられるだけだ。

「この作戦で『セイント』に派手に暴れてもらい、その上でお前たちヴェスパーが勝利をおさめる。それがお前たちの目論見だろうが、そう思い通りにはさせん」
「黙れ」
「だから楔を打つ事にした。ヴェスパーの要になる部分にな」

 こいつ、いつになくまともな事を言う。どうせ誰かの入れ知恵だろうが。

「元々寄せ集めのヴェスパーをまとめ上げたのは裏切り者の近衛優一郎と、彼に従う美里良。この二人、いやどちらかをつぶせばヴェスパーなど烏合の集にすぎん」

 メフリスは満面の笑みを浮かべた。
 郡司の顔に脂汗が流れる。

「いいのか。そんな話を私にしても」
「案ずる事はない」

 勝ち誇った表情でメフリスは片手を上げた。
 それを合図に先ほどの兵士ふたりが郡司に銃を向ける。

「死人に口なし、だ」

 相変わらず下品な男だ。
 死が迫る中、なぜか郡司はそんな事を思った。
 にこやかにメフリスが手を振り下ろす、まさにその瞬間、

「お待ちなさい!」

 声の先には赤い戦闘服に身を包んだ戦士がいた。
 郡司が安堵のため息をつく。

「気をつけろ『まほろ』。こいつらは『管理者』だ」

 その言葉に、むしろメフリスが色めき立つ。

「『まほろ』だと!?」

 『まほろ』に銃口を向ける兵士たちを手で制し、彼は命じた。

「やめろ。お前たちの叶う相手じゃない」

 メフリスは嘗め回すような視線で『まほろ』を観察した。

「ほう、貴様が噂に聞くヴェスパー最新鋭のアンドロイドか。よろしい、そこを動くな。抵抗するとこいつの命はないぞ」

 兵士たちに郡司を拘束させると、メフリスは好奇心を隠そうともせずつかつかと『まほろ』に歩み寄り、ねぶるような視線で彼女を眺めまわした。

「実によくできている。人間そのものだ」

 彼の顔に浮かんだ表情は、紛れもなく嫉妬だった。

「貴様には私の研究室に来てもらおう。まさかここに来て『まほろ』の入手にも成功するとはな」

 『まほろ』は呆れ顔でメフリスを不快そうに見ている。

「あなた、さっきから何を言ってるの」
「口の効き方がなってないな。『管理者』の尖兵として改造する際、真先に修正せねばならん」

 そう言うとメフリスは懐から大きなスイッチのついたブラックボックスを取り出した。

「さあ、少しばかり眠ってもらおう、か!」

 メフリスがスイッチを押した途端、CICの全てのモニターが消え、端末から炎が吹き上がった。
 そればかりか二人の兵士までが硬直し、力を失い崩れ落ちる。

「そう、その二人は私の作ったアンドロイドよ。この装置が発生させる電磁波は、全ての電子機器の素子を狂わせ機能を停止させる。『まほろ』よ、もちろんお前も例外ではない」

 立ちすくみブルブル震えている『まほろ』の顔をメフリスはのぞきこむ。

「これと同じ機能を、外で暴れている怪物も持っている。あれに比べればこの装置など可愛いものだが。どうだ、苦しいか…… グヘッ!?」

 言い終える前に『まほろ』のグーパンチがメフリスの顔面を直撃する。

「汚い顔を近づけないでね、このクズ!」

 もんどりうって倒れるメフリスは信じられない表情をする。

「ば、馬鹿な!?」
「バカはあなたでしょ!」

 メフリスを後ろ手に縛り上げながら彼女はあきれ顔で言った。

「あなた本当に『まほろ』の事調べてきた? あの子がこんなふくよかな胸してるわけないでしょ!」
「ま、まさかお前は人間……」

 もう一発、正拳をメフリスの顔にブチ込んで『まほろ』は、いや『まほろ』の戦闘服を着こんだ椎名は、縛られた郡司の縄を解き、彼を引き起こした。

「大丈夫ですか?」
「すまんな、君まで危険に巻き込んで」

 遅れて大門も駆けつけ、二人を見て笑った。

「椎名君。その戦闘服、似合ってるじゃないか」

 椎名は苦笑した。

「こいつらがバカで助かったわ」
「『管理者』はどいつもこんなもんさ。人を馬鹿にした自称エリート集団は肝心なとこが抜けてる。特にこのメフリスはその典型だな」
「メフリス? 奴が来たのか」
「来たもなにも、そこにのびてるだろ?」

 郡司の指さす先に、しかしメフリスの姿はなかった。

「あ……」
「いないな」
「奴の逃げ足だけは天下一品だからな」

 椎名は副官の容体をうかがう。幸い一命は取りとめそうだ。
 騒ぎを聞き駆けつけた兵士たちに後を任せ、三人は部屋を出た。

「美里司令が心配だ」

 郡司は先ほどのメフリスの話に不安を隠せない。
 奴らが司令の命を狙っているとすれば、今は絶好の機会だ。

「なんとか司令に連絡をとれないだろうか」

 だが椎名は虚しく首を振る。
 郡司自身、それが無理なのはわかっていた。CICを破壊されたイージス艦にはまともな戦闘力も通信能力もない。

「メフリスにしてはまともな作戦だな」

 メフリスとのやりとりを聞いて、大門も頷いた。

「じゃあ、ひょっとしてあの怪物は『管理者』の!?」
「あるいは『管理者』がなんらかの方法でセイントの戦闘メカを操っているのかもしれん」
「でも、どうやってです?」

 だが『管理者』の事だ、なりふり構わずやってくるのだろう。

「考えたくない事ですが…… 内通者がいるのかも」

 椎名が不安そうな顔で考えを巡らす。

「内通者?」
「ええ。ヴェスパー内部の情報を、『管理者』に流した者が」

 美里司令の存在が扇の要のようにヴェスパーという組織を纏めている。それを実感しているのは、なにより組織内部の人間だろうから。

「内通者か……」

 大門は顎に手をあてた。

「心当たりが、なくもない」
「誰だね?」
「誰です?」

 美里司令の命をエサにして、確実に獲物をおびき寄せる。
 そんな事を企む者がいるとすれば、それは大門の知る限りただ一人……

(司令、なんて事をするんです。あなたって人は)

 たとえ逃げろと言っても司令はきかないだろう。司令が望んだ危機ならば。
 もはや頼みの綱はただ一つ。
 一見か弱くさえ思える実戦経験のない少女に、今は託すしかない。

 三人は、数マイル後方の『ニュージャージー』に思いを馳せた。

「まほろ」
「……司令を頼むわよ」

(続く)



次回はいよいよまほろさんと戦闘シーンです。やっぱ『まほろ』なら戦闘シーンも書かないとね。
と言いつつ、そういうシーンはほとんど書いた事ありませんが。
(ミリオタなのに)




「まほろさんファースト」(6)

『まほろまてぃっく』の小説の続きです。




 訪れる人を圧倒するために作られたとしか思えない、国防総省の巨大なエントランス。
 まるで観光客のように私があたりをキョロキョロしていると、一分の隙もない受付嬢が声をかけてくれた。
 ダメもとで美里司令の所在を訊ねてみる。

「ミスター・ミサトなら30分前にここを出られました」

 豊かな金髪の巻き毛を揺らせながら、受付嬢は親切に教えてくれた。

「預けていた釣り竿を持って、出て行かれましたよ」

 思い出し笑いをする受付嬢に、私もその姿を想像して笑った。
 ボケベルで呼び出すまでもなく、尋ね人の所在は見当がつく。
 受付嬢に礼を言いペンタゴンを後にした私は、駐車場に止め置いた車に乗り込み、さほど遠くないポトマックの河畔に向かった。



 蒸し暑い日本よりよほどさわやかな風が肌に心地よい。
 川の両岸に植えられた桜並木の緑のまぶしさに目を細め、河畔のまだ見ぬ春を思い描く。
 散策を始めてほどなく、尋ね人は見つかった。
 その人は岸辺のベンチ代わりの石に腰掛け、少し猫背気味に釣り糸を垂れていた。いつぞやの野良着ではなくフォーマルな恰好こそしていたけれど、それがかえって不自然極まりない。
 私はにんまりとしてそっと近づいた。

「ここは禁漁区じゃないんですか」

 驚かせようと声をかけたつもりが、

「まほろか」

 毎日会ってる人と挨拶するようにそう言って、その人は竿を持ち上げる。

「仕掛けはついてないから、大丈夫さ。ほら」

 そうして呆れたことにまた釣り糸を垂れる。

「『李下に冠を正さず』ということわざもあります」
「博識だな、まほろは」

 まったく、しようのない人です。
 心で愚痴を言いながら、私も司令の隣に腰掛ける。

「その制服、似合ってるじゃないか」

 そういう事はちゃんとこちらを見て言ってほしいものです。しかも今頃になって。

「私は普段からこの格好です」

 そう。初めて司令とお会いしたあの時も。

「そうだったか、すまんすまん」

 全然すまなさそうにそう言って、司令はまた糸の先に目を移す。
 「お迎えにまいりました」と言わずもがなを切り出すのがなぜか無粋に思えて。
 だから私も司令と一緒に来るはずのないアタリを見張っていた。ときおり顔を出しては水面に円を描く小魚を眺めながら。

「どのくらいで戻れるね、まほろなら」

 唐突に司令が訊ねる。

「あの車なら、2時間もあれば」

 自尊心をくすぐられる質問に、思わず胸を張り即答する。

「車で来たのかい、ノーフォークから」

 司令は笑いをこらえ、土手の上の車を眺めた。

「ほう、アストン・マーチンか。帰りが楽しみだな」
「V8でのドライブは実に快適でした。欲をいえば、いつかは憧れのDB5にも乗ってみたいものですが」
「そうか、まほろは『ゼロゼロセブン』のファンだったな」
「『ダブルオーセブン』とおっしゃってください。お歳がバレバレです」
「ははは。いいじゃないか」

 ん? よく考えたら私、司令に『007』の話なんかした事ありましたっけ?

「2時間だね。ではもうしばらく甘えさせてもらおう」
「よいのですか、お仕事は」
「うん。仕事はもう済んだ」

 今夜の作戦の事実上の指揮官である司令はそう言って大きなあくびをした。

(司令といると、私までぐうたらがうつってしまいそうです)

 そう思いながら空を見上げると、まるで遠足の日のような晴天が広がっていた。

(遠足…… そうでした!)

 私は車に駆け戻り、持ってきた包みを取ってきた。

「よろしければ、どうぞ」

 今朝がた作ってきたクラブサンドを差し出すと、司令の顔がクリスマスプレゼントの箱を開けた子供のようになった。

「なにぶん出先、まして見知らぬ異国の地とて、そんなものしか間に合いませんでしたが」
「ありがとう」

 そう言って司令はクラブサンドをほおばった。
 私はなぜだか司令の傍らで正座して、次のひとことを見守った。
 司令が目を丸くして言った言葉は、私の期待したのと少し違っていた。

「うちのに、似てるな」
「うちの?」
「ああ。家内の味に、どこか似ている」
「奥様ですか」

 そうして不意に気づいた。
 司令は私の事をいろいろご存じなのに、私は司令の事を何も知らないことを。

「司令の奥様は…… どんな方なのでしょう」

 つぶやくともなくつぶやいた私の言葉に、司令は懐に手を入れて何やらもそもそとし始めた。

「?」

 司令がつっけんどんに私に見せたのは、ラミネートされた一枚の写真だった。

「家内だよ」

 釣り糸を見つめたまま司令がつぶやいた。

「綺麗な、かわいらしい奥さんですね」

 お世辞じゃない言葉が自然と口をついて出た。
 写真の中の奥さんの笑顔は、胸に抱いた幼い子に注がれている。
 その子のみせるあどけない笑顔に、私もつられて微笑んだ。

「それに、とても可愛い娘さん」
「息子なんだがね」

 釣り糸を見つめたまま司令がつぶやいた。

「そ、そうでしたか。失礼しました!」

 私が赤面して頭を下げると、

「いいさ。みんな間違えるんだから」

 釣り糸を見つめたまま、司令がポリポリと頭をかく。

「性格まで女の子みたいに優しくてね。『優』なんて名前にしたせいかな」
「すぐるさん、ですか」
 
 そう思って写真を見直すと、とても利発そうな男の子に見えてくるから不思議なものだ。

「この作戦が無事に終わったら…… 久しぶりに家族に会えそうだ」

 そう言って川面をみつめる司令の横顔は、言葉と裏腹で寂しげに見えた。

「そうだ、まほろに頼んでおこうかな」

 司令が優しい笑顔を私に向ける。

「なんでしょう?」
「私に万一の事があったら……」

 私は息をのんだ。

「かわりに、優への土産を選んでくれるかな」
「それは……」

 しばし言い淀んだ私は、冷たく言い放った。

「それは、私の任務外のことです」

 驚いたような司令を見つめ、私は言った。

「私の任務は、司令に万一が起きないようにすることですから」
「そうか」

 微笑む司令の傍らに、私は改めて腰掛け直した。

「でも、本当に敵は来るのでしょうか」

 作戦への疑問を司令に訊ねたのは、初めて実戦に挑む自分の不安な気持ちのせいだったかもしれない。

「来るよ」

 声を潜めた私の問いに、司令はあっけらかんと答える。

「ちゃんとエサを蒔いてきたからね」

 まるで目の前の釣りの話しでもするように司令は言う。
 けれど司令の視線は、対岸の巨大な五角形の建物を見つめていた。

 エサ、とはなんの事だろう。
 司令は何と戦っているのだろう。
 我々が戦うのはセイント。意思の疎通のできない宇宙人のはずなのに。
 けれどその舞台裏で様々な勢力が駆け引きを繰り広げているのを、私はおぼろげに感じずにいられなかった。

「さ、そろそろ帰ろうか」

 司令は竿を引き上げ、ズボンについた埃を払った。

「今夜は私と『ニュージャージー』に乗艦してもらうよ」

 なにげない司令の言葉に思わず「はい」と言いかけ、息を呑んだ。
 司令は交渉に成功したのだ。
 けれど。
 『ニュージャージー』に、現代戦の艦隊旗艦を務めるに足る通信設備が備わっていないことくらい、私でも知っている。司令の乗るべき旗艦には、最新の電子機器を備えたイージス艦こそ相応しいはずなのに。

「怪物と対決するには、怪物が一番だからね」

 そう語る司令の表情は、既に指揮官のそれだった。
 有無をも言わさぬ気迫に押され、私は頷く。
 相手が怪物なら、相手をする戦艦も怪物、か。
 そして…… 私もそうなのだろうか。
 司令の背中を追って土手を登る私の脳裏に、ノーフォークで待つ巨大な戦艦の姿が映った。

(続く)



私の好きな『まほろ』キャラ(女性)は、

式条 ≒ まほろ > ちづ > 椎名、凛、深雪 > その他

です。
みなわの良さがわからん私に、彼女の魅力を教えてください。


プロフィール

雪山雪男

Author:雪山雪男
「艦これ」大好きな元「Answer×Answer」プレイヤー。
老眼と戦いながらプラモ作りに励んだり、気まぐれで小説を書いたりする日々です。

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