心地よい文章

父親に一冊の本を勧められました。



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「吉村昭が伝えたかったこと」
 文芸春秋編



父はエジプト研究の吉村作治さんと間違ってこの本を買っちゃったそうですが、面白かったから読んでみろと渡されました。



これは小説ではなく、2006年に亡くなった吉村さんが残した言葉や文章から特に震災後の日本に大事と思われるものをピックアップし、他の人が文章を補足したものです。
そんな本でもこの作家の凄さは伝わってきました。
非常に説得力のある文章を書く人です。
小説を書くにあたっての徹底した現地での取材、資料の収集といった地道な作業の積み重ね。それがどんな天才が想像力を巡らせて書く文章よりも読者に迫ってくる。

「関東大震災の火災の原因の第一は一般家庭の失火よりむしろ、工場などの薬品の落下である」

私はこの本を読む瞬間までそんな話は聞いたことも考えたこともありませんでした。
あれだけの災害を経験した日本に住み、防災について新聞やニュースで散々聞かされ続けているにも関わらず、です。
「リュックは可燃物。手ぶらで逃げろ」
「非常食など用意しなくてもよい」
「とにかく道路を空けておけ」
目から鱗の言葉、そしてその言葉についての確かな裏付けが理路整然と語られていきます。
想像で書かれたものではなく、綿密に調査した過去の記録や証言に基づいたその文章には圧倒的な重みがあります。
吉村氏の徹底的な取材の労に驚くと共に、災害に対する現代にも通じる知恵が大正、明治、江戸の昔から伝えられていることにも驚きました。
同時にそうした教訓が、情報社会といわれる現代においてもきちんと生かされていないと痛感します。
マスコミによってむしろ情報は画一化され、声の大きな者に都合のよい情報ばかり伝えられる今の世の中で、正しい事を正しく伝えることの難しさを考えさせてくれます。
そして何より、どんな甚大な災害も100年たてば忘れられ、放っておけば同じ過ちを人は繰り返してしまう事を思い知らされました。あの大震災も、そして原発事故さえも、黙っていればきっと歴史に埋もれてしまう。声を上げ警鐘を鳴らし続けることが、平凡な私たちにも出来る大事なことなんだと思わせてくれました。



そして話の内容以上に感じたのは、この人の文章の格調の高さです。
この本には吉村氏の文章や言葉と共に様々な人の文や意見が書かれていますが… 私はほとんど読みとばしました。
言っちゃ悪いが、格が違いすぎます。
吉村さんの文章には迷いがない。
真実を追求し、それを分かりやすく正しく読者に伝えようとしている。
文章を書く事への覚悟が凡百の物書きとは違いすぎる。
「見栄え良く書こう」「美しい文章を書こう」という欲望とは正反対でありながら、そこには機能美にも似た美しさが感じられます。
「この人が書いた文章なら安心して読める」とまで思わせてくれる、人柄が滲み出た希有の魅力に溢れています。


父は早くもこの人の小説を注文したらしいです。
私も楽しみです。
父さん、作治さんと間違ってくれてありがとう!

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雪山雪男

Author:雪山雪男
「艦これ」大好きな元「Answer×Answer」プレイヤー。
老眼と戦いながらプラモ作りに励んだり、気まぐれで小説を書いたりする日々です。

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