『戦艦武蔵』

父がタイムリーな本を買ってきたので私も読ませてもらいました。


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吉村昭『戦艦武蔵』(新潮文庫)


少し前にやはり父の勧めで吉村さんのエッセイを読ませてもらい、柔らかく読みやすい文章を書く人だと思いました。この小説はそれより若い頃書かれたもので幾分固めの文体です。

中身のほうもガチガチにマジメです。
軍艦といえば男の子の憧れ(ですよね!?)、かっこよさの象徴だと思うのですが、この本を読んでも「武蔵」をかっこいいとは思いません。
むしろ畏怖の対象です。
兵器として怖いというより「武蔵」の存在そのもの、そして当時の日本を覆う重い空気が、本を通して「ずうん」と伝わってきます。


話の前半では武蔵の建造から完成に至るまで、特に建造にあたっての徹底した隠蔽工作が執拗に描かれています。
海軍が最強の決戦兵器を建造している事を敵国に(ばかりか自国民にも)知られないよう、造船所の職員はおろか地元長崎市民に至るまで徹底的な口封じを行う。
その徹底ぶりは驚きを通り越し、今から見れば滑稽でさえあります。
しかし関係者や住人にとって、それは恐怖でしかなかった。制服私服の憲兵が町中を見張り、少しでも怪しいものは容赦なく苛烈な取り調べを受ける。
国を守るべく作られる戦艦のため、善良な市民や造船所員がおびえて暮らさねばならないこの矛盾。

そして後半では、そこまでして秘密裏に造られた「武蔵」が実際の戦争ではほとんど役に立たなかった事が、非情なまでに克明に描写されます。
莫大な国費と労力を費やし4年以上の歳月をかけて建造された巨艦が、僅か2年あまりで千人をこえる将兵と共に南海に没する。
建造に携わった多くの人々の苦労は報われないまま「武蔵」は沈みました。なんとも虚しさばかりが残ります。
武蔵を生んだ造艦技術は戦後の造船大国日本の礎となりますが、そこに至るまでに失ったものはあまりにも大きい。
吉村氏の筆は多くを語らず淡々としていますが、かえって読者にいろんな事を考えさせてくれます。


これを読んだのは実は2週間ほど前なのですが、これを読んだせいで是非とも「艦これ」で武蔵をゲットしたくなった…
などとは思いませんでした。
感じたのはただただ、虚しさだけ。
内容については知っている事が多く、改めて驚く事はありませんでした。でも裏を返せば、我々が知っている「武蔵」の知識の多くがこの本を元にしているという事です。
綿密な取材に裏打ちされたこの吉村昭の労作は、今なお戦記ドキュメンタリーの金字塔といえるでしょう。
架空戦記のような娯楽性は皆無ですけどね。



「艦これ」の攻略方法を調べに関連サイトや掲示板に行くと、
「おじいちゃんが〇〇という軍艦に乗ってました」
といった雑談をしばしば見かけます。
今の世の中からは信じがたいけど、私のおじいちゃんたちは銃を持ってあの戦争を戦っていたんですね。
そう思うとこの戦争が、妙な話ですがとても身近に感じます。
とっかかりはどうであれ、こうして過去の戦争の話に触れ戦争について考えることは悪い事ではないと思います。
たとえそのきっかけが「艦これ」というギャルゲーであっても。


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雪山雪男

Author:雪山雪男
「艦これ」大好きな元「Answer×Answer」プレイヤー。
老眼と戦いながらプラモ作りに励んだり、気まぐれで小説を書いたりする日々です。

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