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『惑星ソラリス』

「先週末に借りたレンタルDVDが面白かったので紹介します」Part2。
前回は戦争映画でしたが第2回は一転、SF映画です。
『惑星ソラリス』。今回借りた中では唯一見たことのある映画です。


自分にとってSF作家の双璧はディックとレム。
そのレムの代表作を映画化したのがこの『惑星ソラリス』。
そもそもレムを好きになったきっかけがこの映画です。
そんな映画なのに、まだ数回しか見たことがありません。
(所持していた唯一のメディアはVHSで、もう捨ててます)
時々見たくなる、ということもありませんでした。
興味がないからではありません。その逆で、映画の内容はほとんど自分の脳内で再生できるからです。
いや、再生できると思ってました。

レンタル屋で『加藤隼戦闘隊』を借りた際、何かついでにと思いこのDVDを手に取りました。
パッケージの写真がとても綺麗なのに驚きました。
私の脳内再生より数段美しいのです。
そうか、デジタルリマスターってやつか。

『惑星ソラリス』の公開は1972年。
私が見たのは1980年代。それもサンテレビかKBS京都あたりで平日に放映してた、CM入れても1時間半くらいにカットされた物です。持っていたVHSテープもこれを録画したもの。しかも3倍モード。画質はもうお察しレベルです。
原作も何度となく読み、知りすぎるほど知ってるつもりの映画でしたが、今改めて高画質で見れば新たな発見があるかもしれません。


そうして久しぶりに見た『惑星ソラリス』はいろんな驚きが詰まっていました。
冒頭から見たことのないシーンの連続で、画質もいいしほとんど別映画。始めて見る気分で見れました。



最初に述べた通り私はレムのファンで、日本語版の出ている小説はほぼ読破したと思います。
中でも『ソラリス』は別格だと思います。他の作品より優れているという意味ではありません。彼の作品の中でこれだけが異質なのです。
様々なジャンルのSFを書いたレムですが、ざっくり言えば「極めて知的でクール、そしてややシニカル」な作風だと言えるでしょう。
その中にあってこの『ソラリス』にだけ、ラブストーリーの要素がふんだんに詰まっているのです。
それはこの作品の世界観、ソラリスの海が持つ不思議な特性が生んだものといえるでしょう。
心理描写に卓越したレムはこの作品で、非現実的な世界に投げ込まれた男女の恋愛劇をリアルに描く事に成功しています。が、それはレムが意図したというより自分の生んだ世界観に彼自身が導かれて書いたようにも思えます。普段のシニカルな描写は影を潜め、別人が書いたようなロマンチックな作品になっています。
この小説は紛れもないレムの作品でありながら、ある意味本人の意志を超えた傑作だと思えます。


この紛う事なき傑作、けれど内省的で映像化など思いもよらないこの作品を、タルコフスキー監督は見事に視覚化してくれました。
この映画は必ずしも原作に忠実と言えず、むしろ監督はこの素材を上手く利用して自ら表現したいものを映画にしたといえるでしょう。ソラリスの海(つまり「水」)やら無重量空間での「浮遊」など、タルコフスキーにすればさぞかし美味しい部位がふんだんにある良素材に見えたことでしょう。
そしてこの映画では、原作の持つロマンチックな部分をこれ以上ないほど美しく再現しています。

SFの魅力、その最大の魅力の一つは「問題の単純化」だと思うのです。
現実にある複雑な問題を、極限の状況に置いて単純化してみせる。結晶のように純粋にして問題の核心に迫る。それが出来るのがSFだと。
『ソラリス』で描かれるもの。それはこの上なく純粋な愛です。
死んだ人間が生き返る。それは人間の究極の夢のはず。
それが最愛の人であれば、なおのこと。
それが何故、こんなにも辛く苦しいことなのか。
この上なく純粋で美しい愛なのに、なんで見ていてこんなに胸が苦しく切なくなるのでしょうか。
テレビで毎日やっている甘ったるいラブストーリーなど見向きもしない私ですが、『惑星ソラリス』の世俗と無縁の閉ざされたステーションの中で描かれる、飾りを剥ぎ取った痛々しい愛の行方には心打たれます。



そんなわけで久しぶりに見た『惑星ソラリス』は大、大、大満足でした。
普段は映画の画質などにはこだわりませんが、やはりこの監督の映画は高画質で見るに限りますね。
『ストーカー』と『サクリファイス』は映画館で見ましたが『ソラリス』も見とけばよかったなあ。
でも、きっと泣いちゃう。映画館で泣いちゃう。
誰だよ、この映画を「難解」とか「退屈」とか言ってる奴は。
とっても分かりやすいし、私は1秒たりとも退屈しませんでしたよ。
それとこの映画、事あるごとに『2001年宇宙の旅』と比較されますが、全然異質だと思います。
『2001年』はラブストーリー要素ゼロだし、『2001年』より『ソラリス』のが全然チープだしw
(お金はそれなりにかかっているらしいが)
ちなみに私、『2001年』の方はまるで理解できません。
むしろ『ソラリス』と比類すべきは『ブレードランナー』じゃないかと思いますが。

「タルコフスキーにも1本くらいディックの作品を作ってほしかったなあ」
などと思いつつ、今日のブログを終わります。
次回は第3段です。見てからもう一週間も経つけど。


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雪山雪男

かつて「Answer×Answer」「艦これ」にハマりましたが、今も細々とブラウザゲーを続けてます。
クロスバイクで大阪府近辺をうろうろするのが今の楽しみです。

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