「まほろさんファースト」(3)

『まほろまてぃっく』の書きかけ小説の続きです。
前回から間が空いてしまってすみません。
(前も同じ事を言った)




 エレベーターを最下層まで降り、迷路のような通路をなおも進む。
 突き当たりの小さな通用口を開けると、先程までのけだるい暑さを一瞬で忘れてしまう冷気が襲ってきた。

 そこは「広大」という言葉がぴったりだった。
 地上とは隔絶された空間。ヴェスパー本部の最深部にある、ここは地下大格納庫。
 たとえこの部屋の片方の隅に立って声の限り叫んでみても、もう片方の隅まで声が届くとは思えない。ビル数階分はあろうかという巨大な鋼鉄の扉の向こうは発進用のトンネルになっていて、その先は遙か東京湾まで繋がっていると聞く。

 けれどその巨大さはいくぶん持て余し気味だった。この日、私が呼ばれた時も。

 私の目に映ったのは、屋内の一番奥で低い唸りをたてている電源車らしき車両と、そこから何本ものコードで繋がったちっぽけな機体、そしてそれに群がる数人の人影だけだった。
 私は目をこらし、見慣れないその白い機体を見つめる。

 (あれは『シルフィード』!?)

 鶴翼の如き優美な機体。話に聞いていた私のサポートメカ。
 魅力的なその姿に誘われるように、私の足は自然とそちらに向かった。

「まほろか」

 聞き覚えのある甲高い声。
 シルフィードの傍ら、簡易な衝立に仕切られた一角で、技術官の郡司さんがモニターを見つめながら菓子パンをかじっていた。

「やあ、まほろ」

 機体の向かい側から顔をのぞかせたのは、早熟の天才と噂の高い帆風さんだ。

「どう、『シルフィード』の第一印象は?」
「素敵です。とても」
「まほろのサポートメカだからね。やっぱり美しくないと」

 シルフィードを素敵だと言った私の言葉はもちろん嘘ではない。
 けれど私にはシルフィードよりも、帆風さんの顔色の悪さと、机にずらりと並べられた栄養ドリンクのほうがよほど気になった。

「で、まほろはなんで今頃こんな場所へ?」
「私が呼んだのだ」

 ようやくモニターから目を離した郡司さんは厳しい表情を崩さない。

「渡米の前に、まほろと『シルフィード』の結合テストに立ち会うつもりだったんだが」

 技術官は眼鏡に手を当てた。状況が困難な時に見せる彼のクセだ。

「今日までに間に合わせるつもりでしたが」

 明らかに寝不足の様子の帆風さんが首を振る。
 共に働く技師の方々も、疲れた顔を上げて笑顔を見せた。

「すみません。次の作戦までには間に合わせます」

 郡司さんはそんな技師の言葉を目で制した。

(近々発令されるという新たな作戦の噂、やはり本当なのでしょうか)

 だとしたら、この人たちの戦いはもう始まっているのだ。私が呑気にかき氷を食べている間にも。

「あの、私も何か手伝える事があれば……」
「まほろはもう手伝ってくれてる」

 缶コーヒーをすすっていた郡司さんの口許が緩む。

「お前は与えられた訓練を着実にこなしている。それが何よりの手助けだ」
「でも、私……」

 帆風さんも微笑んで言う。

「今の君には何もかもが勉強なんだよ、人間らしい生き方を覚える事もね」
「帆風さん」
「でも、そこまで言ってくれるなら、ちょっと手伝ってもらおうかな」
「はいっ!」
「大事な任務だよ」

 そう言って帆風さんは何故か私に哺乳瓶を握らせた。

「哺乳瓶!?」
「うん。サポートメカへの補給任務」

 そう言って帆風さんは傍らの、とっても場違いに見える藤編みのゆりかごを指さした。
 帆風さんにうながされ、私はゆりかごの中を覗き込む。

「まあ、かわいい! 」

 中ですやすやと眠っていたのは黒ヒョウの赤ちゃんだった。

「君のサポートメカ。見ての通りまだ育成中だけど」

 私の声に反応したのか眠い目をこするその姿は子猫そっくりで、頬ずりしたくなるほど可愛らしい。
 確か、地上型のサポートメカはサイボーグだと聞いていたのだけれど。

(この子、生き物のように成長するというのでしょうか。ヴェスパーの科学力恐るべしです)

「この子の型番はV1046-R9」
「聞いてます。名前は確か『ロデ……』」
「違うだろうが、ボケ」

 黒ヒョウの赤ちゃんが不機嫌そうに口を開いた。

「あら、しゃべりました」

 私は口の悪い黒ヒョウを抱き上げる。

「おう、おめえがマスターMAHOROか。オレっちは……」
「かわいいでちゅね~、こちょこちょこちょ」
「ぎゃはははは! やめやがれ、この変態アンドロイド!」
「見た目はこんなに可愛いのに、なんてドスの効いた可愛げのない声なんでしょう」
「オレッちは『V1046 R9-SLASH ZERO』。長ぇから『スラッシュ』って呼んでくんな」
「これはこれはご丁寧に。ではよろしくスラちゃん」
「おめえ、下手に出てりゃつけあがりやがって。ちっとは人の話を聞けってーの。スラッシュだよスラッシュ! 」
「可愛くない声は塞いじゃいましょ。えいっ」

 私が哺乳瓶をくわえさせると、抵抗していたスラッシュもたちまち甘美なミルクの味にほだされて天使の顔になる。

「彼とはうまくやれそうだね、まほろ」
「はい、それはもう。にしても、随分口の悪いサポートメカですねえ」
「ははは。まだ調整中だから」

 そう言って帆風さんは苦笑するけれど。なかなかこの口調はちょっとやそっとの調整で直るレベルとも思えませんが。

「残念だが『ロデ……』いや『スラッシュ』も見ての通り、まだ実戦に出せるレベルじゃない」
「そうですか。ところで『タツジン』は……」

 私は別のサポートメカの名を口にする。
 『V1046 RX-TATSJIN』。海を統べる私の片腕。
 私がこの格納庫に呼ばれた理由は、てっきり『タツジン』に係わる事柄だと思っていた。ここがこれほど巨大なのは『タツジン』を収容するためなのだから。

「その『タツジン』だが、現在アメリカの某造船所で建造中だ」

 郡司さんが腕組みをして言う。

「あれの建造は我々ヴェスパーの施設では手狭なのでな。近々、完成間近のあれを本国に持ち帰りここで最終調整する手筈になっている。私が今晩アメリカに向かうのもそのためだが……」

 そこまで言って、郡司さんはサングラス越しに私の顔を見つめた。

「その輸送の際には、まほろ。お前も護衛の任にあたるよう依頼が来ている」
「私に?」

 突然振って沸いた話に、けれど私は驚かなかった。
 いつかこの日が来るのは判っていたことだから。

「冗談じゃない」

 私よりもむしろ帆風さんが、不満たらたらの表情を浮かべた。

「まほろの訓練の日程はぎっしり詰まってるんですよ」
「私が賛成だと思っているのかね?」
「誰なんです、そんな無茶を言うのは」
「そんなもん、決まっとるだろう」

 その名を口に出さずともわかる。郡司さんがこんなしかめっ面をするのは、決まって大門副司令の話をする時だ。どういうわけか、私が物心ついた時から二人は犬猿の仲だった。

「あやつの依頼だけなら断固断るのだが…… 実は今度の件では美里司令からも要請がきておるのだ」

(美里司令が……!?)

 帆風さんが驚いた顔をする。

「司令はそんな無茶を言う人では」
「だからこそ断りきれんのだ」

 郡司さんは眼鏡に指をあてる。

「最近、主要各国の軍艦が正体不明の敵に襲われる事態が頻発しているのは知っているな」

 帆風さんは黙って頷き、私は首を傾げた。

「正体不明の敵、ですか?」
「まほろは知らないの? 最近は主にカリブ海あたりを荒し回ってるらしいけど」

 帆風さんの言葉に郡司さんが頷き、説明を続けた。

「襲撃は決まって夜だ。生存者が少なく情報も限られている。生き残りの目撃者の証言によると、彼らは一様に『海面に虹色の光を見た』と言っている」
「虹色の、光?」
「その戦闘力から推察するに、セイントの戦闘用アンドロイドないしロボットの仕業とみるのが妥当だろう」
「セイントの…… でも、なぜ海なのでしょう?」
「彼らの目的は?」
「わからん」

 郡司さんは首を振る。

「セイントが民間人を巻き込まない形で存在をアピールするため、洋上で行動に出るのだという意見もある。が、全ては憶測に過ぎん」

 郡司さんは口をつぐんだ。

「皮肉なものですね。海の守護神として作られる『タツジン』を運ぶための海上護衛なんて」
「『タツジン』を向こうで最終調整までしちゃえば、護衛なんていらないのにね」

 帆風さんのもっともな言葉を、郡司は咳払いで遮った。

「まほろ。出動要請が来ているのは事実だが、お前はまだ訓練中だ」

 サングラスの奥の郡司さんの目が微笑んだ気がした。

「少しでも不安な気持ちがあるなら、遠慮なく言いなさい」
「技術官、ありがとうございます。でも、その必要はありません」

 私は首を振った。

「私はそのために作られたのです。断る理由はありません」
「……わかった」

 郡司さんは頷き、帆風さんを見た。

「はい。全力で『シルフィード』の最終調整を進め、輸送作戦に間に合わせます」

 帆風さんの表情はいつになく悲壮だった。

「なあ、オレっちも戦わせろよ」
「あなたはさっさと成長しちゃいなさい」



 その夜、首領様の名義で正式な通達が来た。

『V1046R-MAHOROは明朝0700をもって実戦部隊に配備。目的地等詳細は追って通達する』

(続く)


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雪山雪男

Author:雪山雪男
「艦これ」大好きな元「Answer×Answer」プレイヤー。
老眼と戦いながらプラモ作りに励んだり、気まぐれで小説を書いたりする日々です。

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