「まほろさんファースト」(4)

『まほろまてぃっく』の小説の続きです。
涼しくなってようやく書けるようになってきました。
話の中ではまだ真夏なのにw
(いつもの事です)




 翌朝。
 きらめく朝焼け雲を背にして、私と椎名さんはだだっ広い駐機場を駆けに駆けていた。
 米軍と自衛隊が共有しているこの飛行場の一角をヴェスパーも間借りしているのだが、居候の悲しさ、目的のハンガーまでがやたら遠いのだ。

「椎名さん、急いでください」
「待ってよ、まほろぉ」

 陸上部に入れば余裕でレギュラーと思える椎名さんの快足も、さすがに私相手では分が悪い。

「こんな忙しいのに、お弁当なんか作ってるから」
「椎名さんも賛成してくれたじゃないですか」

 昨日の郡司さんの食生活や憔悴しきっている帆風さんを見てしまうと、せめてこれくらいはせずにいられなくて。だから貴重な時間を割いて作ったお弁当の包みを小わきに抱えて、私は駆ける。

 ヴェスパーの制服姿をした若い女性の二人連れ。そんな状況が物珍しいのか、たむろしていた米兵たちが口笛を吹いて手招きし、若い自衛隊員たちが控えめな笑顔で手を振る。
 椎名さんは慣れた手つきで手を振り返す。
 私も笑顔を返していたけれど、隊員たちの視線が椎名さんのたわわな胸に注がれていると気づいた私は、やにわにバンカー向かって全力ダッシュ!

「まほろったら。もう、待ってよお」

 ようやく辿り着いたバンカーで私たちを待っていたのは、白い機体の双発ジェット。民間機と見間違える外見とはうらはらに余裕でマッハを叩き出す高性能機だ。


「おはようございます」
「ただいま、到着…… しました…… ぜえぜえ」

 元気いっぱいの私と息の荒い椎名さんが二人して狭いキャビンに乗り込むと、

「おはよう」

 後部座席には既に大門副司令の姿があった。

「慌てることはないぞ。なにせパイロットがまだだからな」
「帆風さんは?」

 副司令が指さしたシートに深く沈みこみ、帆風さんが静かに寝息をたてていた。

「『シルフィード』の積み込みも済んでいる」

 『シルフィード』の調整が順調なら郡司さんと共に旅立っていたはずの帆風さん。夕べは徹夜だったのだろう、覗き見る寝顔は安らかというにはほど遠い。

(『シルフィード』の最終調整は向こうに着いてからですね)

 あるいはサポートメカなしで戦いに挑むことになる。私はそう覚悟を決めた。もっともどんな戦いが待っているのか、私には想像もつかなかったけれど。
 いま一度機内を見渡し、私は言った。

「全員搭乗ですね。では出発しましょう」
「だから言っただろう。パイロットの姿が見えんのだと」
「パイロットならここに」

 椎名さんが私を指さす。

「まほろが?」

 きょとんとした顔の副司令がヘンな声をあげる。

「お前、飛行免許なんか持っとったか?」
「なんというか、まだ仮免ですが」

 ヘッドセットを装着しながらも、私はもごもごと口ごもる。

「ほら、もっと自信持って」

 そんな私の脇腹を椎名さんがツンツンこづく。

「まほろ、チェックリストを」
「はい」
「おいおい、冗談じゃない。今からアメリカまで飛ぶんだぞ」
「あ、これ、飛行許可です」

 椎名さんはニコニコ顔で、副司令に一枚の紙切れを差し出した。

「この下手くそなサインは紛れもなく首領様の…… うむう」
「ご安心下さい。まほろの操縦技術は教官として保証します」

 椎名さんが、少々あてつけがましく言い足した。

「なにしろまほろの実戦投入がせかされるものですから、訓練の時間もこうしてやりくりしているわけでして」
「わかったわかった」

 その言葉を大門さんはけむたそうに聞き流す。

「離陸準備完了です」
「よし、行こうか」

 管制官と教官の許可を得て、私は操縦桿を握り滑走路に機体を滑らせる。

「わあ、シミュレーターと同じです」
「し~っ」

 椎名さんが唇に指を当て、そして副司令は青ざめる。

「ちょっと待て。まほろ、実機の操縦は初めてなのか?」

 寝ていた帆風さんが薄目を開けて答える。

「大丈夫ですよ。まほろの学習能力は人間のそれを遙かに凌駕してますから」
「そういう問題じゃないだろうが」

 のろのろとシートベルトを付ける帆風さんに副司令がくってかかる間、私の隣では椎名さんがてきぱきと指示を出す。

「まほろ、離陸したら高度8000まで上昇して訓練空域に向かって」
「了解です」
「インメルマンとバレルロールの教練がまだだったわね」

 顔に脂汗をしたたらせ、副司令が悲鳴に似た声を出す。

「そんな事は俺の乗ってない時にやってくれ!」
「いやなにしろ実戦化を急かされているもので」
「到着予定時刻に間に合わんだろうが」
「大丈夫です。訓練の後、ジェット気流に乗ってぶっ飛ばします」
「副司令。人間、あきらめが肝心ですよ」

 帆風さんがそう言いながらアイマスクを取り出した。

「まほろ、『シルフィード』は壊さないでね」
「お任せください」

 再び眠りについた帆風さんに太鼓判を押す。
 もっと繊細で壊れやすいお弁当も積んだのだ。うまく操縦しないと椎名さんは合格点をくれないだろう。これも訓練の一環だ。
 さあ、行きますよ。
 私は雑念を捨て、椎名さんに鍛えられそらで覚えた操縦技術を駆使してスロットルを開けるのだった。



 10時間後。
 私の操縦する機体は地球を半周し、予定時刻通りにアメリカ・バージニア州ノーフォークの地に降り立った。
 機体のチェックも早々に、私たち一行は広大な基地内の一室に呼ばれた。
 小さなブリーフィングルームにヴェスパーの関係者が揃った。副司令、技術官をはじめ十数人の選りすぐりのメンバー。 さらには肩に物々しい階級章をつけた海軍将校の姿もあった。
 けれど美里司令の姿はない。忙しいのは知っているが、ここでも会えないなんて。

 飛行機を下りたあとフラフラだった大門副司令が、別人のようにシャキンとした態度で海軍の面々を紹介し、椎名さんが流暢な英語で彼らに翻訳する。

「ここにいる者は信用のおける者ばかりだ。改めて今回の作戦について手短に話す」

 副司令の言葉に一同の姿勢が改まる。

「明日夕刻、我がヴェスパーのサポートメカ『V-1046 RX-TATSJIN』輸送のため、輸送船「オハイオ」がここノーフォークをたつ。イージス艦『タイコンデロガ』を旗艦とする艦隊がこれを護衛、我々の選抜メンバー十数名も各艦に分乗し警護の任につく」

 大門は一同を見回して言った。

「だが、この作戦はおとりだ」

 ちらり、とメンバーの顔色を見たが、誰一人表情を変えない。
 皆、この事をあらかじめ知っていたようだ。
 私以外には。

「輸送船がおとりとなり、近海を跋扈する正体不明の怪物をおびきだし、艦砲による一斉射撃でこれをしとめる」

 護衛作戦どころじゃない。これは完全な戦闘だ。
 私が呼ばれた理由が、ようやくわかった気がした。

 少将の階級章をつけた精悍な顔つきの将校が一歩前に立ち、言葉少なに決意を語った。

「対セイント戦のエキスパートである皆さんと共に戦える事を嬉しく思います。一連の事件では我が国の艦艇も少なからぬ被害を受けている。この借りは、明日の作戦で必ず返すつもりです」

 誠実そうな少将の顔に作戦遂行の決意が浮かぶ。
 副司令が頷き、言葉を継いだ。
 
「ヴェスパー本来の使命はしばらく脇に置いてほしい。今の我々に求められているのは、目の前のセイントの脅威を排除する事だ」

 副司令は語気を強めた。

「セイントを倒せるだけの実力を示さねば、我々の立場は危うくなる。今作戦にはヴェスパーの存続そのものがかかっているといっていい。だから必ず成功させねばならぬ。怪物をしとめ、その正体を白日にさらすのだ」
「はいっ!」

 一糸乱れぬ返答に、副司令は満足の表情を浮かべる。
 その後は各担当者による作戦説明が続いた。
 私の役目は「機動予備」。作戦が上手くいかなかった場合に臨機応変に対処する、要は後詰めだ。ヴェスパーの一員としては、私が必要とされる事態が起こらぬよう望みたいところだ。

(それにしても、なんで私だけおとり作戦の事を知らされてなかったのでしょう)

 少将と談笑を終えた椎名さんにそれとなくグチをこぼすと、

「はは~ん。さてはまほろ、信用されてないんじゃないの?」

 椎名さんはしたり顔で言った。

「どうしてです?」
「『まほろは口が軽い』って。あなた、司令がエッチな本を隠してた事みんなに言いふらしたでしょ」

 椎名さんはいつになくニヤけた顔をする。

「恵比寿でもここでも、今じゃその事知らない人いないわよ」
「それは…… おかしいですね」

 私は頬に指をあてて考えこむ。

「私はその話、椎名さんにしか言ってないのですが」
「え!? え~っと、そうだっけ? あは、あははは」

 ギクッとなった椎名さんが下手な口笛をふいてその場をのがれようとする。もう椎名さんたら。
 その時、

「まほろ。ちょっとつきあってくれるか」

 机の書類を片づけていた郡司さんが私に声をかけてきた。

(続く)





いくつになっても小説の構成を考えるのが下手でいけません。
小説を書く時に「アウトラインプロセッサ」というのが便利だそうですね。
どなたかお勧めのがあれば教えてください☆


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プロフィール

雪山雪男

Author:雪山雪男
「艦これ」大好きな元「Answer×Answer」プレイヤー。
老眼と戦いながらプラモ作りに励んだり、気まぐれで小説を書いたりする日々です。

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