「まほろさんファースト」(5)

『まほろまてぃっく』の小説の続きです。




 私は郡司技術官に誘われるまま、連れ立って散歩に出かけた。

「一足先に来たはいいが、どうも時差ボケが酷くてな。まほろは大丈夫か」
「はい。今のところは」

 鋭い目つきの警備兵の慇懃な敬礼を受けて「KEEP OUT」の門をくぐり、閑散とした夜の桟橋を歩く。
 埠頭を流れる夜風が、ほんのり潮の薫りを運んでくる。

(あの日と同じ匂い……)

 美里司令と初めて対面した日の事を思い出し、私はクスリと笑った。

「ここまでの直行便、まほろが操縦してきたそうじゃないか」
「はい。訓練を兼ねて」
「そうかそうか。副司令の驚いた顔が目に浮かぶようだ。わっはっはっ」

 歩みを進めると、倉庫に遮られていた埠頭の全景が見えてきた。
 予想もしていなかった街明かりが目にとびこんでくる。
 いや、それは洋上に浮かぶ艦船たちの電飾だった。まるで海の上にまるごと一つ街ができたような。

「明日の作戦に参加する艦艇だ」
「これが全部」
「ああ」

 眼前に広がる、ここノーフォークの港に集結した各国の軍艦たち。
 その眺めは壮観の一言に尽きた。上空から眺めた時に艦隊の集結には気づいていたけれど、その時感じなかった圧倒的な威圧感がここにはあった。
 アメリカはもちろん、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、数年前まで西側の敵だったロシアの艦艇や、驚いたことに自衛隊の艦艇の姿までも。
 西半球最大とも言われる巨大な軍港が、今は各国の艨艟に彩られていた。ヴェスパーという一組織のため、それも表向きはサポートメカの輸送という地味な任務のために。

「まほろ、ここにいたか」

 その声に振り向くと、大門さんが後を追うようにやってきた。
 郡司さんは振り向きもせず皮肉たっぷりに声をかける。

「どうだったね、まほろとのフライトは」

 大門さんはヒクヒクと顔面をひきつらせた。

「お前さん、わざとしむけただろ?」
「ん、なんのことだ」
「しらばくれるな。まほろの訓練と知ってて俺を同乗させようとたくらむ奴が他にいるか」
「さあてな」

 しゃあしゃあと言ってのける郡司さん。
 二人が顔を会わせるといつもこうだ。

「で、どうだったね副司令。まほろの操縦技術は」
「そりゃあもう完璧だった」

 大門さんは自分のことのように鼻高々だ。

「なんなら帰りはお前さんが乗って帰ったらどうだ?」
「ふふん、見るまでもないわい」

(この二人、仲がいいのか悪いのか、時々わからなくなります)

 渡しそびれていた差し入れを渡すのは今だとばかりに、私は小わきに抱えた包みをほどいた。

「あの、よろしければ」
「何!?」
「これは…… まほろの手づくりか!?」
「まだ料理の方も修行中で、お口に合うかわかりませんが」

 そう私が言ってる先から、大の大人ふたりは奪い合うようにして差し入れをむさぼった。

(あ、他の皆さんの分……)

「美味い」
「美味いな」
「まほろが作ったんだからな」
「たいしたものだ。料理も、操縦も」

(他の皆さんには、どこかで食材を求めて作り直すとしましょう)

 けれど、私に一番求められているのは料理でも操縦でもない。
 そしてそれは明日試される。
 目の前に広がる艦艇と同じで、私も戦うために作られたのだから。

 それにしても。
 戦闘用として教育された私の目には、一見強力無比な艦隊のほころびも見えてしまう。
 イージス巡洋艦『タイコンデロガ』、駆逐艦『スプルーアンス』、ミサイルフリゲート『O.H.ペリー』……
 いずれもアメリカ海軍自慢のネームシップといえば聞こえはいい。が、裏を返せば実験艦的な性格を併せ持つ老朽艦ばかり。
 各国から派遣された艦艇も二線級の旧式艦が目立つ。旧ソ連の艦艇に至っては失礼ながら、ここまで大過なく航行してこれたのが不思議なほどだ。

「今回の作戦に、空母は参加しないのですか?」

 気になっていた事を、思い切って訊ねてみた。

「必要ないそうだ」

 郡司さんの表情は重い。
 大門さんも渋々頷く。

「だがな、これだけの艦隊を揃えてもらったんだぞ。我々は与えられたコマで作戦を遂行するしかない」
「しかしこのいびつな編成はなんだ。失敗してくれと言わんばかりではないか」

 郡司さんの口から不満が漏れる。

「成功させるしかないさ。各方面の支援が得られなければヴェスパーの存続は成り立たない。たとえ近衛財閥の後ろ盾があってもな」

 なぜだろう。
 我々ヴェスパーは地球を、人類を守るために戦っているのに。
 けれど大門さんの、郡司さんの表情を見ていると、私は何も言えなくなってしまう。私にはよくわからない様々な事情が、組織の上にのしかかっているのだ。
 私にとって、ヴェスパーは我が家同然。
 それがなくなるかもしれないなどと、今まで考えたこともなかった。
 その存続がかかるというなら、なおのこと全力を尽くさねばなりません。

 そんな事を思いながら、軍港に浮かぶ艦隊にまた目を泳がせた。
 埠頭の対岸に、ひときわ威容を放つ艦があった。

「あれか。老朽艦どころか骨董品だな」

 他を圧するその巨艦の名はBB-62・アイオワ級戦艦2番艦 『ニュージャージー』。
 齢五十にならんとする、時代錯誤も甚だしい大艦巨砲の権化。
 そこに近代化と称して巡航ミサイルや対艦ミサイル、銃身を鈍く光らせたバルカン砲といった現代兵器で武装したその姿は逆に痛々しささえ覚えた。

「あの艦も、今回の作戦に?」

 首を振る郡司さんにかわって大門さんが説明してくれた。

「交渉中だ。美里司令が、軍のお偉いさん方相手に」
「司令が?」
「そうだ、まほろ」

 突然、明るい口調で大門さんが切り出した。

「司令を迎えに行ってくれないかな」

 まるで今思いついたことのように副司令は言うのだ。
 興味をそそられ、私はつい尋ねた。

「司令は、今どこに?」
「ワシントンDCだ」
「それはいい。まほろが迎えに行けば、司令も喜ぶ」

 郡司さんが相槌をうつ。

「そうでしょうか」

 司令とのあの事を思い出して知らずふくれっつらになっている自分が恥ずかしくなり、私はぷいっと空を見上げた。
 軍港に艦隊の明かりがきらめくように、夜空には星明かりがまたたいていた。まるで空の上にもうひとつの艦隊があるみたいに。

(続く)


こんなのを書いてるせいで、「艦これ」の大淀さんの声がまほろさんにきこえて仕方ありません。
……大淀さんとまほろさんって、どっちが強いんでしょうね?

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雪山雪男

Author:雪山雪男
「艦これ」大好きな元「Answer×Answer」プレイヤー。
老眼と戦いながらプラモ作りに励んだり、気まぐれで小説を書いたりする日々です。

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