片渕監督と『名犬ラッシー』

こうの史代さんの『この世界の片隅に』を買いに本屋に行きました。
本棚を何度も念入りに探しましたが、売ってませんでした。

「今売らなきゃいつ売るんだよ」

はしごをしようにも、生活圏内に本屋はここだけです。
(古本屋は3軒あるのに)
いろんな意味で、本屋は終わってますね。


いっぽう監督の片渕さんの事も気になったので、週末にでも『マイマイ新子と千年の魔法』を借りて見ようと思っています。
なんで今すぐ見ないのかと言われそうですが、今は先週見たあの映画を反芻している最中なので。



そんなわけで頭の中は『この世界の片隅に』一色です。
見終わってからじわじわくる映画なのは確かですが、私の場合、じわじわが日を追って激しくなるいっぽう。
あの監督さんにとんでもないものを盗んでいかれた気分です。
いったい何者なんだ、片渕監督という人は?

アニメ好きの弟にその話を振ってみました。
弟「そういえば片渕さんって、『名犬ラッシー』もやってたな」
私「『ラッシー』!」
目の前がパッと開け、もやもやが失せ、知識の断片と断片が一瞬で繋がりました。
あの『ラッシー』の監督か。



『名犬ラッシー』は日本のアニメ界の良心ともいえる名作劇場シリーズ、その晩年に作られた作品です。
原作のドラマチックな部分は影を潜め、微笑ましくも平凡な日常を淡々と描いた作品です。
私は再放映で見たのですが、ある意味たまげました。

「ストーリーが… ない!」

いや正確にはストーリーがないのではなく些細な事ばかりなのですが、ある意味斬新でした。
その時は、些細な話から登場人物の心情を見事にあぶり出すシナリオライター・松井亜弥さんの卓越した手腕にばかり気をとられていましたが…
そうです。あの時の監督が片渕さんでした。

『ラッシー』の作品としての評価は、低視聴率が続いた挙げ句シリーズ初の2クール打ち切りという不名誉な記録が全てを物語っています。
時代が名作アニメを必要としなくなったと言えばそれまでですが、前作の『ロミオの青い空』がスポンサーの思惑を超えてオタク層に人気があったことを思えば、やはり『ラッシー』は少なくとも興行的には失敗作と言わざるをえません。



その片渕監督の作品を結果として20年振りに見たわけですが、そう思ってみると監督の正常進化ぶりに驚かされます。日常の描写を大切にしつつも、ちゃんと見る人が退屈しないよう配慮されている。
と同時に監督の本質は20年前と変わっていない。『ラッシー』と言われた瞬間「なるほど」と納得するくらい、この人全然ブレてない。


面白いのは(先日買ったパンフレットを読んで知ったのですが)、こうのさんが『ラッシー』を好きだったという事。
片渕監督が『この世界の――』をアニメ化したいと手紙を送った時、こうのさんは「『ラッシー』の監督さんだ!」と知って喜んだそうです。
アニメの『ラッシー』を知らない人も大勢いるだろうに、「いつかこんな物語を描きたい」と思っていたそうですから、これはもう運命の出会いとしか言えません。
まさかあんな地味なアニメが巡りめぐってこんな名作を作る引き金になろうとは。自分も『ラッシー』は好きなので、このエピソードにはなんか嬉しくなっちゃいました。
打ち切りで終わった『ラッシー』ですが決して駄作ではありません。あの大震災以来、人々が癒しを求めるようになった今なら、もっと高い評価を受けていいかもしれませんね。


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雪山雪男

Author:雪山雪男
「艦これ」大好きな元「Answer×Answer」プレイヤー。
老眼と戦いながらプラモ作りに励んだり、気まぐれで小説を書いたりする日々です。

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