だだ漏れる才能

好きではないamazonで買い物をしました。
そうまでして欲しかった本なので。



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ユリイカ16年11月「こうの史代特集」号
こうの史代『夕凪の街 桜の国』



こうのさんの漫画『この世界の片隅に』は、映画を見た翌週に買いました。今では私の愛読書です。
映画と原作漫画が互いを補完しあってる。最高の形で作品をリスペクトしてもらった幸せな漫画です。
それもこれも原作のクオリティが高いからこそ。
こうの史代さんのことは今まで全く知りませんでしたが、こんな凄い作品を書く人がいたなんて。
そんなわけでどうしてもこの人の他の作品が読みたかったのです。
現在、新本で手に入るのは『この世界の片隅に』の他には、この『夕凪の街 桜の国』だけのようですね。


この漫画も戦争、それも原爆というテーマを扱っていると聞いて読む前は少し腰が引けていたのですが、やはり重い話でした。
重い話でしたが、絵柄が軽妙な事もあってすんなり読めました。
(ひょっとして、私が原爆という重いテーマに対して鈍感なだけかもしれませんが)

こうのさんは重いテーマをことさらに重く見せない、バランス感覚に優れた人ですね。
まず、絵そのものが魅力的です。特に若い女性を活き活きと描いてます。手足の指先まで神経の行き届いた、登場人物のしぐさを見ているだけで楽しくなる、そんな漫画です。
そして何より魅力的なのは、どんな時にもユーモアを忘れない心。
それでいて時には人の心に潜むトゲをかいま見せる深い人間観察。
それらをセリフでなくサラッと見せる漫画的手法の上手さ。
そのうえ文章まで上手いのだから手の付けようがない。
ざっくり言えば、センスのいい漫画家。
いや、センスのかたまりのような漫画であり漫画家です。
言葉ではなく絵で書かれた詩を読んでるような、そんな心地よさを覚える漫画です。



けれど正直に言えば『夕凪の街 桜の国』は『この世界の片隅に』ほどは私の心に刺さりませんでした。
(先に『この世界の片隅に』を読んでしまったせいでしょう)
もちろん良作だと思いますが、むしろ、
「これほどの人なら、こういう題材じゃなくてもっといろんな話を魅力的に描けるだろう」
と思ってしまうので。
さらに言えば、『この世界の片隅に』に比べて『夕凪の街 桜の国』はどこか淡々としていて。逆に言えば『この世界の片隅に』には『夕凪の街 桜の国』にはない気迫というか凄味を感じます。

『夕凪の街 桜の国』が自分の代表作とみなされてしまう。「戦争漫画家」という烙印を押されてしまう。

その事に、こうのさん自身が納得いかなかったのではないでしょうか。
『この世界の片隅に』の、特に終盤の畳みかけるような展開には、

「自分の代表作は自分が決める」
「これが私の代表作だ」

そんなこうのさんの執念を感じるのです。
そういう意味では、『夕凪の街 桜の国』の存在そのものが『この世界の片隅に』を生み出す原動力になったのだと思います。
片渕監督にとって『マイマイ新子』がそうであったように。



さて、もう一冊の「ユリイカ」特集号には、こうのさんの単行本未収録作品がいくつか掲載されています。
こちらはシリアスな要素の少ない日常系の短編です。
とりとめのない4コマ漫画の中にさえ、優れたクリエイターの持つ洞察力がちりばめられている。それも意図して入れたというより、ただ自然に描いているみたいに。
作者本人の苦労には関係なく、読む側からは何の苦労もなく描いたように見える。
この人は生粋の漫画家なんだなあ、と思います。
この人ならきっと何を描いても面白く読ませてくれるに違いない。
そう思わせるだけの説得力が感じられます。


こうのさんの漫画、他にもいろいろ読みたくなりました。
ただ、先に述べたように、単行本が出てないんですよね。
電子書籍版ならちらほら出てるんですが、あれはどうも苦手で。
とりあえず古本屋をあさってみるとします。
弟のお勧めは『ぴっぴら帳』なのですが、私は動物の漫画にあまり興味ないので、
(そのジャンルは、たかなし先生で間に合ってる)
女の子が元気よく動き回る話とか読みたいなあ。

そうそう。
こうのさんの作品には、いわゆる「百合」成分が多いですね。
『夕凪の街 桜の国』という重い話の中でさえ「隙あらば百合」というこうのさんの一貫したこだわりには清々しささえ感じます。
私は基本的に、そういうのは興味ない(というか、理解しようと苦心したけど結局理解できないまま)のですが、なぜかこうのさんの描くナチュラル百合属性は全然オッケー。
というかむしろ「どんと来い!」っす。

私ももこうのさんの手によって、遂にその方面に開眼する日が来たのかもしれません!?


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No title

『夕凪の街 桜の国』は、原爆がテーマなもんで広島長崎両県民には刺さりまくる作品です。
おっしゃる通り淡々としてるんですが、それまで長崎県民として『はだしのゲン』の濃さや、原爆にまつわる悲しい逸話などを読んで育ってきたもんで、ほんのり明るく淡々としてるのに原爆のを描ききってるのが衝撃でした。
『夕凪の街』で皆実が言う
「嬉しい? 十年経ったけど、原爆を落とした人たちは「やった!また一人殺せた!」と思うてくれとる?」
という台詞で涙腺崩壊してしまい(書きながら泣いてますw)、以来滅多に読み返さない漫画になりましたw。

映画が評判だもんで、大きめのコミック専門店なら、こうの史代作品は入手しやすいと思います。『ぴっぴら帳』は持ってます。女の子と鳥が戦う(笑)漫画です。
こうの史代の定規とスクリーントーンを使わない作画は、『じゃりン子チエ』のはるき悦巳と共通してるなあ…と思う今日この頃であります。

No title

メテオさん、お返事遅れてすみません。

『この世界の片隅に』は一読しただけで素晴らしさがわかったのですが、『夕凪の街 桜の国』は私には少し難しかったです。
本当に理解できたかと言われると自信がありません。
(都合3回読み直しましたが)
私が原爆について鈍感すぎるのかもしれません。
原爆については、長崎広島の人にしか理解できないこともあるのかも、と思ったりもします。
自分は阪神大震災の時は埼玉にいたし、東日本の時には大阪に戻っていて、真の大災害には逢った事がないので、本当の恐ろしさが肌でわかってないのかもしれません。
メテオさんの「滅多に読めない」という言葉には衝撃を受けました。同じ本を何度でもすらすら読める自分は、まだこの本のメッセージを本当には理解していないのだろうと思います。


>『夕凪の街』で皆実が言う

こうのさんはフェイント気味にいきなりブッ刺してきますよね。
『この世界の片隅に』の最終回では私もグサリとやられました。
ある意味、すずさんの棒術にも通じるものがあるのかも?


他の作品も読んでみたいんですけど、大型の本屋が近くにないんですよ。ある意味メテオさんの方が私なんかより都会に住んでると思います。
昨日、古本屋で「長い道」の文庫版を見つけたのですが、細かい文字がキツいのでスルーしました。
それに普段は「古本でもいいや」な私が、こうのさんの本は新本で欲しくなります。
自分は普段アニメもマンガもストーリー重視ですが、こうのさんのマンガは何よりその絵に惹かれるので。
プロフィール

雪山雪男

Author:雪山雪男
「艦これ」大好きな元「Answer×Answer」プレイヤー。
老眼と戦いながらプラモ作りに励んだり、気まぐれで小説を書いたりする日々です。

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