思わぬ収穫

数年前(ちょうどAnAnにいそしんでた頃)自分は全くといっていいほど読書をしない人間でした。
(年に数冊レベル)

その反動か、最近はほぼ週一ペースで読みまくってます。
とうとう書棚の本をほぼ全制覇してしまいました。
近所の古本屋にあった目ぼしい本もあらかた物色済みで、遂には父の本棚まで漁り始めました。
(『大尉の娘』という本がおもしろかったです)

そうやって飢えをしのぐ私の元に、ネットで買いあさった段ボールいっぱいの本がようやく届けられました。
(本棚が絶望的に足りないことには目をつぶろう)

美味しいものは最後にとっておく派なので、一番どうでもいい本から読み始めました。
そうしたら、その本が大当たり。
「通勤時間のひまつぶしにでもなれば」
と思ってましたが、いやいやどうして。



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勅任艦長への航海(上)
パトリック・オブライアン著 高沢次郎訳 ハヤカワ文庫


本の内容を大雑把にいえば、ナポレオン戦争時代のイギリス海軍の船長の活躍を描いたフィクションで、いわゆる娯楽小説です。
なのですが、やたらと文章が上手い。
冒頭から始まる当時の軍艦内での生活の描写が実にこと細かく、まるで見てきたことのようにリアルで説得力があります。
圧巻は海戦のシーンで、古い言い方をすれば「手に汗握る」「血沸き肉踊る」。その興奮を文章だけで伝えてくれるその文才には、ただただ脱帽。このくらい文章が上手ければさぞ書いてて楽しいだろうと思えるほどです。
「艦これ」のような第二次大戦の頃とは全く違う、野蛮で凶暴でひたすら男臭くそしてかっこいい、そんな海の漢たちの戦いを、まるでその時代に連れて行かれたかのような臨場感で思う存分堪能できます。


それにしてもこれほどリアルな描写を書いたこの人は、いったいどの時代の人物なのか。
調べてみると、作者は1914年アイルランドに生まれ、その後英、仏に移住し2000年に亡くなっています。つまり書かれた時代の遥か後の人です。なのにこれほど迫真の描写ができるとは。
日本でいえば藤沢周平や山本一力といった大御所に匹敵する、歴史ものの大家なのでしょう。
と同時に、作者の育った地域には、日本などより遥かに濃い、帆船に対する憧憬が根付いているのだと思います。


私は子供の頃、イギリス人が書いた「アーサー・ランサム全集」という児童文学を読んでいました。子供たちだけで小さな帆船を操り冒険する話です。
それは平和な時代の話で海賊が出たり大砲を撃ったりはしません。けれど帆船やヨットの操縦や海での生活が驚くほどこと細かに書かれているのです。
私は上記の小説を読みながら、この児童文学の事を思い出していました。
イギリスやアイルランド(おそらくオランダあたりも)、そういった地域の人にとってヨットや帆船は日本の我々が考えるよりよほど一般的で人気のある娯楽なのでしょう。



オブライアン氏の筆の冴えはそこだけに止まりません。登場人物が実に魅力的なのです。
主人公のジャック・オーブリーは海の男としてはほぼ完全無欠で部下からすれば実に頼もしい人物ですが、一歩陸にあがれば借金取りにおびえ、ろくに日の目もおがめない男として描かれています。
その無二の親友であるマチュリンも、船医として頼もしいだけでなく多彩な知識人であり、同時に奇癖を持つ妙な男として描かれています。
二人を中心とした物語は当時の海軍のトップから場末のごろつきにいたるまで多彩な人物に彩られています。
そして娯楽小説でありながら、オブライアン氏の筆は時に人間の深みを巧みに描いているように思えます。まるで作者の人間としての深みが筆を通して滲み出たように。たとえ悪役を描いていても、そこには彼がそんな人間になるしかなかった哀しさが感じられる。
当時60近い作者の、優しく人間を見る目がそこには感じられるのです。

そこまで素晴らしい小説なのですが、要所で描かれるラブストーリー的な展開がもう「い~~っ!」となるくらいうっとうしい。
あれほど男らしいオーブリーが好きな女性の前では別人のように女々しくなり、愛し合う男女の気持ちは幾度となくすれ違う。陸にあがった時のこいつらの優柔不断さにはイライラして思わずページを読みとばしたくなります。
(たまに読みとばします)


そんなこんなはありますが、全体として上質の娯楽小説であることは間違いありません。
ひょっとしたらそれ以上の何かです。
このシリーズ、ハリウッドで映画になっているそうですが、見てみたいなあ。


最後に、訳者の方の素晴らしい仕事に感謝し、世界に埋もれた名作の数々を日本の読者に提供し続けてくれるハヤカワ文庫に感謝します。
(まさに「振り向けば『ハヤカワ』)
このシリーズまだまだ続きがあるそうなので、私が良書に困ることは当分ないでしょう。


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雪山雪男

Author:雪山雪男
「艦これ」大好きな元「Answer×Answer」プレイヤー。
老眼と戦いながらプラモ作りに励んだり、気まぐれで小説を書いたりする日々です。

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